湿気の多く蒸し蒸しとした空気。服の中で背中を伝う汗。こんな暑い日の夜は家でクーラーをかけてのんびりジョーカーのメンテナンスをしたり、Lマガの最新号を読みたかった。と俺はため息をついて後悔をする。

「仙道!綿飴があるわよ」

全ては意外にも年相応に夏祭りの出店ではしゃいでいるこの女のせい。はいはい。やる気のない返事を返して俺は思う。

「仙道、夏祭り行かない?」

そう川村アミが言ってきたのは今日の昼過ぎだった。太陽も天辺まで上がっていて暑い中、川村はわざわざ俺の家まで来てそう言った。メールしろよ、なんの為にアドレス交換したんだ。始めは無言で玄関を閉めた。それでも帰らない川村。とうとう折れた俺はついオーケーを出してしまう。自分は押しに弱かったのかと疑った。

「こんな甘いだけの物のどこが良いんだ」

綿飴の出店を横目にそう言う。色とりどりの袋に入れられた膨らみ。時間がたてばただの砂糖の固まりじゃないか。キラキラした安っぽい電球に照らされたビニール袋が眩しくて思わず目を細めた。

「買うのかよ」
「たまに甘いの食べたくなるのよ」

川村は屋台の親父から大きな袋を受け取り、人気の少ない路地に入ってその袋をすぐ開ける。ふわふわとした綿飴が川村の口に運ばれた。

「食べる?」
「いらない」
「そう」

ぱくぱくと食べ進める川村。よく食べるな、と彼女を眺める。

「しかし何で俺なんだい?山野バンと青島カズヤはどうした」
「二人共用事があるって」
「あ、そ」
「ていうか、他に言うことないわけ」

川村は俺の前でくるりと一回転する。あぁ、なんだ。浴衣のことかい?そう聞けば一気に不機嫌そうになり眉を潜めてそうよ、と彼女は答えた。
彼女の着ていたのは淡い桃色の布で出来た浴衣。綺麗な花やら蝶やらが描かれていた。普段からピンク系統の衣服を着ているからかすごく似合っていた。だが俺だ。それを口に出すのは少し歯痒い。

「まぁまぁ、似合うんじゃない?」
「何よ、それ」
「そのままの意味」

仙道のバカ。川村はそう言って俺に背中を向けて歩き出す。からんころん、上品な下駄の音が心地良かった。(どっかの古き番長とはまったく違う)

「きゃっ」
「あ、おいっ」

小石か段差でもあったのだろう。川村が躓き欠けた。そこを俺がうまく腕を掴んで支えた。危ないな、と目線を下げて川村を見る。上目遣いの彼女に思わずどきりとする。

「やだ、下駄壊れちゃった…」

俺の腕に掴まりながら片足を上げて彼女はそう言う。親指と人差し指の間にある支えが根元から切れてしまっている。

「これじゃ歩きずらいわ」
「…なんだ、その目は」
「おんぶしなさいよ」
「断る」

口元を微笑ませながら川村は言う。冗談に全く聞こえないものだから嫌だと即答してしまう。

「ふふ、冗談よ冗談」
「…大体なんなんだ。いきなり祭りに行こうだなんて」
「良いじゃない、別に」

ふらりと歩きづらいだろう足取りで歩き出す。思わずそんな彼女の手を引いた。

「なによ」
「俺と祭りに来たかったわけ?」
「っ、悪いの?」
「良いや?」

真っ赤に染まる彼女の頬を見て喉を鳴らす。なんだ、随分女らしいところもあるじゃないかと感心した。

「手、離しなさいよ」
「危なっかしいから手ぐらい掴んでてやるよ」

口元でニヤリといつも通りに笑ってやった。驚いたのか少し目を見開いた。でもすぐ彼女もいつも通りに、笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

握り返された手は柔らかくて温かかった。


//なつまつりでーと



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -