もしかしたら10年も前から彼女はいつも辛い思いをしていたのかもしれない。かわいそうな奴、同情って言っちゃ失礼だろうがそう思ってしまう。
「木野」 「あ、染岡くん」
久しぶり、そう言って彼女は笑った。相変わらず太陽みたいに優しくて綺麗な笑顔だ。まったく、好きだった奴の結婚式の後だというのによく笑えるなと感心した。 今日円堂と雷門の結婚式が行われた。当たり前だが二人共幸せそうだった。それを見ていた木野も幸せそうにしていたのを見て、10年も好きだった男の結婚式でよくあんなに笑えたものだと思わず木野を尊敬までした。
「円堂くん、幸せそうだった」 「そうだな」 「私ね、円堂くんのこと好きだったの」 「知ってる」
あ、やっぱり?と木野は苦笑した。誰でもわかるだろう、そんなこと。第一音無以外のマネージャーはみんな円堂のことが好きだったのは覚えていた。
「今もね少し後悔してるの、なんで中学生の時告白できなかったんだろうって」 「…そしたら、変わってたか?」 「んー、多分変わってなかったと思う。円堂くんと夏未さん幸せそうだし」 「俺、円堂みたいなバカにはお前が似合うと思っていたけどな」 「ありがとう、染岡くん」
笑って俺の隣を歩いていた木野が急に無言になり、しばらくすると足取りも止まった。俺は振り返らずに立ち止まっていると小さな嗚咽が聞こえてきた。 やっぱり辛いんじゃないか。頑張って今日一日きっと演技で笑っていたんだろう。分かっていた、分かっていたが。
「木野」 「そ…めおかく、今日、私ちゃんと笑えてた…?」
俯いて涙を溢しながら必死で木野は喋っていた。あーあー、せっかくの化粧が台無しだぜ。
「あぁ、しっかり笑えてた。いつもの木野だったよ」 「よかっ、た」
顔を上げて、涙を流しながら木野は笑っていた。ふといつもの太陽みたいな笑顔じゃないのに綺麗だ、と思った。その瞬間木野は俺の胸に寄り添ってきた。おい、と慌てて肩を押し返そうとした。
「ごめん、染岡くん。今日だけこうさせて」 「…」
どうもこの木野を押し返そうなんてこと俺には出来ず、
「頑張ったな、木野」
ただ、そう言って俺は木野の細い身体を抱き締め返すことしか出来なかった。
//世界はいつも君に厳しかった
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