キミとのセカイ16
まえから思ってたんだけど、大学生の夏休みってなんでこう長いんだろう?
アルヴィンは9月下旬まで休みだったみたいで、その間バイト三昧だった。
かといって大学始まったからって勉強してるのかと思えば空いてる時間はやっぱりバイトしてるし。
一度くらいアルヴィンのバイトしてる所を見てみたいなって思ってはいるんだけど、なかなか勇気が出なくて見に行けてないんだよね。
だって喫茶店ってどうも小学生の僕には敷居が高いというか、一人で入りにくいというか。
ある日の土曜日。
僕は学校が半日で終わったからお昼頃に帰ってきたんだけど、珍しくアルヴィンが部屋にいてパソコンをいじっていた。
僕がただいまーと言っても返事がなかったことから、彼は余程集中して何かを作成しているみたいだ。
机の上にはパソコンの他に数札の本が積まれている。
おそらく課題をやっているんだろう。
僕は開けていた部屋のドアをそっと閉めてキッチンスペースに向かうと、暖かいコーヒーを入れ始めた。
一つは砂糖とミルクのたっぷりはいったちょっと甘めのカフェオレでもう一つは何も入ってないブラックなコーヒーだ。
それを持って部屋に戻ると相変わらずアルヴィンはパソコンと睨めっこをしている。
「アルヴィンお疲れ様。少しは休憩したら?」
と言いながらおぼんの上に乗せていたカップのうちの一つをアルヴィンに差し出す。
まさか僕がいるとは思わなかったんだろう、アルヴィンは一瞬びくっと肩を震わした後ようやく僕のほうを見た。
「あ、れ?ジュード君いつのまに帰って来てたの?全然知らなかったけど」
「ちゃんとただいまは言ったんだよ?
でもアルヴィンったら物凄い集中力で全然僕に気がついてくれないんだもん。」
アルヴィンはそうかそれは悪かったなって言うと僕が差し出しっぱなしだったコーヒーの入ったカップをサンキューと言いながら受け取った。
僕もアルヴィンの向かい側に座ってカフェオレを飲み始める。
それは暖かくて、ほんのり寒くなってきた秋に身体を温めるにはちょうどいいものだ。
「ねぇアルヴィン、今日もバイトなの?」
何気なく尋ねるとアルヴィンは片手を顎に添えながらうーんと暫く考えていたかと思うと、いや確か今日は休みだという返事が返ってきた。
何やら来週ゼミで発表会のようなものをするらしく、その資料作りをしなければいけないらしい。
忙しいんだねって言うと、
「何々、もしかして青少年は俺にかまって欲しいの?」
なんて返答してくるものだからち、違うよって焦って返した。
そんな僕の様子をクククッと笑いながら見てくるアルヴィンにちょっとむっときたけど、そこはグッと我慢する。
彼がこうやって僕をからかってくるのは日常茶飯事となっていたし、いちいち気にしてたらやっていけない。
「今度…一回くらいはアルヴィンのバイト先を見に行きたいなって思って」
そんなことを言う僕に、彼は今度は笑わずに、でも少し驚いたという顔をしてパソコン画面から顔をあげてこちらを見てきた。
「へぇー、ジュード君は俺の職場なんかに興味があるんだ」
「えっ、うーん…そうだね、アルヴィンの働いてる所とか制服姿とか見てみたいし…でも喫茶店なんて一人で一度も入ったことないからどうも躊躇しちゃって」
そこまで言うとカフェオレを飲みながらちらりとアルヴィンのほうを伺う。
するとアルヴィンもコーヒーを一口飲んで
「そーだなー…じゃあ丁度明日は日曜日だし俺と一緒にバイト先まで行ってみる?
相変わらず俺は昼からバイトだからさ。
大してかまってやれねーけど、一緒に行ったほうが入りやすいだろ?
まぁ特に目新しいものなんてないかもしれないけどな」
そんな提案をしてくれた。
「え、いいの?迷惑とかじゃないかな?」
「別に客としてくるんだから何も問題ないだろ?」
「わー、ホントにいいの!?ありがとうアルヴィン!」
僕はちょっと…いや、かなり行ってみたかったアルヴィンのバイト先に行けることになって何だか今からわくわくしてきた。
そんな僕の様子にアルヴィンは口角を上げてくつくつと笑いながら、喜んで頂けたみたいで何よりだ、と言うとまたパソコンに意識を戻す。
僕はそんな彼の邪魔にならないように静かにランドセルから今日の宿題を出して取り掛かり始める。
それから暫く、アルヴィンがキーボードを打つカタカタという音と僕がノートや教科書のページを捲る音だけが静かな室内に響いていた。
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