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「――あの人が、目を覚ましたって」

彼にそう告げられたとき、ボクは動揺を隠せなかった。理由は1番自分自身がわかっている。しかしそれすら認めたくないという自己保身の本能が、その返答を無言とさせた。
彼が言いたいことはわかっている。彼がボクに伝えようとしていることも、理解している。だがボクはそれを認めたくはなかった。……だって、認めてしまったら、全てボクが悪いみたいだ。その考え自体が、ひどく保身的であることにすら気付けない。
ただ静かに突き刺さるような視線を黙殺した。足下には、冷たい水面が沈黙している。

「会わないで、ほしい」

彼は躊躇うように言った。
ボクは水面を凝視する。

「あの人の両親がそう望んでる。僕も、今のお前は会わない方がいいと思う」

どうして?
大好きなのに。
ただ大好きなだけなのに。
第一君には関係ないだろう。
ボクは何も間違ってない。
間違ってない。

「どうしてさ」
「自分がやったこと、忘れたのか?」
「ボクは、何1つ間違ってなんか、ないよ」

水面を睨む。
間違っていないと繰り返す。
そうだ、ボクは悪くない。
悪いのはあの人だ。
ボクをこんな生き物にしたあの人だ。

「誰のせいだよ」

水面に映る自分の顔を見ながら、自嘲気味に呟いた。ボクのせいではない。どうしようもなく泣き出してしまいたい衝動を噛み殺す。脳裏に浮かんでは弾けて消える過去の断片に息が詰まる。胸中に淀む感情と相反する罪悪感が、喉元を突いた。

「ごめんよ……」

本当はね、キミのこと、大嫌いだったんだ。





20110619
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