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数日前、私の元に妙な手紙が届いた。それは白を基調としたシンプルな封筒で、テレビの中でしか見たことがない蝋印と言う物でしっかり閉じてある。裏には差出人の住所もなくて、ただ一文字で"M"と記されている。恐る恐る封筒を開けて手紙を読んでみると、中にはこう書いてあった。



『依頼:仁王雅治に密着せよ』














「と、言うワケで!本日は仁王さん家の雅治くんに密着したいと思いまぁーす!イェーイ☆」

「意味分からん。どう言う訳じゃ」

「今日は学校も部活もない休日、文字通りお休みです。そしてこれ見よがしに天気も晴天っ。さてさて、そんな日に雅治くんはどちらにお出かけになるのでしょうか?」

「……ショッピングモール」

「成程、休みを利用して新しい洋服を買いに行くんですね。流石立海の色男!」

「いや、ただの食材確保じゃ」



姉貴も人使いが荒いぜよ、ため息混じりに呟いた仁王にアッパー食らわしてやりたい。わざとらしく「やれやれ」とか言ってる、腹立つ。とりあえず目の前で左右に躍ってる尻尾を感じるままに引っ張ってみた。



「痛い痛い痛い!ちょ、痛っ名字!!」

「黙れなんちゃって不良。ヘタレ。心優しい貴方の親友様を気遣かって話を合わせなさい」

「その親友の髪をおもいっきり引っ張ってもええんかっ」

「だって仁王が悪い」

「説明なしに理解なんぞできん」



そういえば説明してなかった。素直を手を離してから襟足を摩る仁王に謝って、経緯を説明するためにモール内にある喫茶店に入る(あ、ケーキセットとコーヒー単品一つずつお願いします)。話すと長くなるから所々かい摘まんで、不思議な手紙が届いたこと、依頼と題されたものにMから仁王を密着せよと書いてあったことを説明した。こうやって人に話してみると、余計怪しく思えてくるのは何故だろうか。



「ふーん…で、何でお前さんはそんな怪しいモンに手を貸しとるんじゃ。変って思ったんじゃろ?」

「手伝ったら報酬でペア招待券くれるって書いてたから。ほら、立海からちょっと歩いた先にある焼肉屋、あそこの。しかも全品食べ放題!仁王一緒に食べに行こうよ」



だってあそこの肉めっちゃ美味しい。前食べに行った時頬っぺたが落っこちたかと思ったもん。今でもあの味は思い出せる…今食べてるのはショートケーキだけど。仁王だって言葉を失うほどの美味さじゃ、とか何とか言ってた気がする。



「まぁ、動機は解った。そのMって奴は信用出来るんか?」

「だいじょーぶ。手紙に書いてあったんだけど、会社経営してるんだって。株式会社マーベラスって言うみたい」

「Mは海賊なんか?」

「……は?」

「いや、こっちの話」



よく分からない発言を濁す。そして仁王はコーヒーを飲んでから「大丈夫そうやの」って言って表情を緩めた。…何となくだけど、身体の緊張も解れたみたい。さっき真っ直ぐだったのにちょっと猫背になってる。露骨に現れる態度に少し笑ってしまった。それでいいのか詐欺師。…やっぱり仁王はコートの外ではヘタレだ、うん。





「そんじゃ、そろそろ行くか」

「仁王家の食材確保しなきゃね〜」

「いや……その前に新しい服、じゃろ?」



喫茶店を出てからモール内を歩き回って、適当なメンズショップに足を運んだ。このショップはカジュアルがテーマみたい。仁王に合うものを探すけど、顔が良い奴は何着ても様になるから腹立つ。…選び甲斐はあるけどさ。

何着か買ってから、本来の目的だった食品売場に向かう。その途中仁王が何かに誘われるみたいにふらふらと歩いて行った。



「ちょ、仁王!?」



慌てて後を追うと何故か玩具売場にたどり着いた。その中で一際目立つ銀色が何かを食い入るように見つめている。………あぁ、だからさっきマーベラスに反応したの。仁王、あんたそろそろヒーローから卒業しなさいよ。だけど、まぁ、卒業しなかったから今のテニススタイルがあるのかもね。イリュージョンとかガッツリそうだもん。





密着!〜仁王雅治〜


『報告:ヘタレで特撮好き、ちょっと残念なイケメン』





20110904
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