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「廉造くんを懲らしめようと思うの」



休み時間、私のクラスメイトで同じ祓魔塾生で、そして廉造くんの幼なじみでもある勝呂くんにそう告げた。ハァ?と怪訝な顔をされて少し弱気になる。…大丈夫、勝呂くんは恐い顔してるけど実はイイ奴なんだって兄の方の奥村くんが言ってた。そう自分に言い聞かせて、趣旨を説明した。

簡単に言えばこうだ、『ところ構わず女の子に声をかける廉造くんの煩悩を少しでも減らしたい』。廉造くんはふらふらしてて、今にもどこか遠くに行ってしまいそうで。私から離れて違う人の所へ行ってしまいそうで、恐い。理由は違うけど、勝呂くんだって毎日のように廉造くんに煩悩の塊だと口をすっぱくして言ってるのだ、きっとこの気持ちを分かってくれるはずである。…だから、あのね。



「勝呂くんの柔らかい脳みそと、その屈強な手を貸してもらえませんかっ」



そう言うと、一拍置いてから何故か笑われてしまった。けど頷いてくれて、「俺もどうにかせなあかんって思ってたんや」と一言。よかった、勇気を出して言ってよかった…!緊張の糸が切れて嬉しさを噛み締めていたら、勝呂くんは思い出したかのように呟いた。



「せやけどお前も大変やな、あんなんが彼氏やなんて」

「………え?」

「ん?付き合うてないんかえ?」



え、いや、つつつ付き合ってるけど、え!?何で勝呂くんがそのこと知ってるんだ「志摩が騒いでたわ」…成る程、廉造くんですか。冷静に考えると廉造くんしかいないよね、勝呂くんにそんなこと言うのは。もしかしたら三輪くんも知ってるんじゃないのか。勝呂くんが知ってるんだ、いつも一緒の三輪くんも知ってるに決まってる。隠してたわけじゃないけど、知られてたなんて知らなかった。恥ずかしい。あああ…今日塾に行くのが嫌になってきた。



「うわ、お前茹蛸みたいやで?」

「わ、笑わないでよっ」

「人の彼女捕まえて何してるんです!いくら坊でも許しまへんでっ!?」

「志摩さん落ち着いてください!」

「坊!!!」



今の勝呂くんと私を言葉で表すなら、『ぽかーん』である。薄く笑いながら赤く染まった顔を覗き込んできたので抗議の声を上げたら、タイミング良く廉造くんが教室に入って来て。勝呂くんに掴み掛かろうとする廉造くんを、小さい身体で抑える三輪くん。それを見てハッとした。よく分からないけど、それは違う。違うよ。



「勘違いだよ廉造くん!」



握りこぶしを作った右手をぎゅっと握って私の胸元まで引っ張った。こんなに怒る廉造くん、初めて見た。恐い、けど、言わなきゃ。勝呂くんに廉造くんのこと相談してたんだよ、って。



「……よ、かったぁ」



拙いながらも必死に話したら伝わって、廉造くんは力が抜けたみたいにふにゃりと座り込んだ。必然的に手を掴んでる私も一緒にしゃがむ。廉造くんは苦笑いするような、照れてるような顔で口を開く。



「焦ったんよ…俺、毎日ふらふらしてるから愛想尽かされたんちゃうか、って。…カッコ悪いよなぁ」



そう言い切った後、自嘲するみたいに笑った廉造くん。でも、それって…さっきの言葉を頭の中で反響させて、少し頬が熱くなった気がした。私の考えてることなんて微塵も知らない彼は振り返って、勝呂くんと三輪くんにも言う。



「坊も子猫さんも、えらいすんませんでした」

「ったく、ほんまやわ」

「でも、ちゃんと誤解が解けてよかったですねぇ」



さっきとは打って変わって、ほのぼのとした空気になった。声を荒げた廉造くんに驚いていたクラスメイトも、興味がなくなったように私たちから視線を外す。…よかった、この様子だと誰も気づいてないみたい。ホッと胸を撫で下ろしたその時だった。



「よかったな、これで志摩を懲らしめんで済むわけや」



ポツリとこぼれ落ちた言の葉。顔に熱が集まるのを感じながらも睨み上げると、シタリ顔で心底意地汚く笑う勝呂くんがいた。





早い話、相思相愛


その後。何のことだと問いただす廉造くんから話を逸らすことに必死になる私と、それをにやにや笑いながら傍観する勝呂くん、訳が分からず呆然と立ちすくむ三輪くんがいたことは言うまでもない。



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20111017~20111110
※拍手小話
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