容姿端麗、頭脳明晰、文武両道。人より少し色素の薄い長い髪をなびかせて廊下を颯爽と歩き、時折微笑みながら生徒に挨拶を返している彼女は、まさに言葉通りの人物だ。 彼女を取り巻く環境は最高学年に進級してからも衰える事を知らず、更に高まっている。現に彼女を尊敬の眼差しで眺める生徒の人数は莫大なものになっている。全校生徒、と言っても過言ではないぐらいだ。 プロローグ 中学入学当時から頭角を現していた彼女は、昔から様々な大会に助っ人として参加する事が多くあった。勿論それは安易なことではなかったが、彼女は予定がない限り決まって笑顔で引き受けるのだ。 体育会系、文化系関係なく何をしても上位の成績を残し続ける彼女を、女王(クイーン)と名付けたのは誰だったか。どんなハプニングが起こってもその落ち着いた表情を崩すことなく、一輪の花が咲いたような笑顔を浮かべたまま片付けてしまう。その姿を嫌味だと捉らえる人は皆無に等しく、反対に美しいと捉らえて仕舞う人が多々存在した──。 *** 名前は図書室に向かう廊下を歩きながら、ふと少し前の事を思い出していた。あの頃の自分自身は、苦笑いしてしまうくらい課された目標にたどり着く事に必死だった。 提示される課題以上の結果を残し、認めてもらう…この目標の為にどれだけの犠牲を払ったことか。休む暇もなく稽古に勤しみ、女子高生らしい事など一つもやってこなかったのだから。しかしそんな事も終わって仕舞えばなんてことはない。 ──だってこれからは、堅苦しい柵に囚われる事なく好きな事が出来るんだから! 「あ、のっ……日吉さん!」 今までの思考を全て停止し、名前は名前の呼ばれたほう…後ろを振り向いた。そこには顔を真っ赤に染めた可愛らしい女子生徒が。上靴のラインを見る限り、どうやら新一年生のようだった。 どうしたの、そう問い掛ける前にちらりと見えたのは見慣れたハンカチ。あぁ、ポケットから落ちてしまったのか。自分の浮かれ具合と鈍感さに少し苦笑して、柔らかく話し掛けた。 「わざわざ拾ってくれたのね」 そして彼女は女子生徒に歩み寄り、色素の薄い長い髪をなびかせて言う。 「有難う」 オプションには笑みを浮かべて。 容姿端麗、頭脳明晰、文武両道。 多くの生徒の尊敬の的である彼女は女王と呼ばれるのに等しい。 そんな彼女の名は日吉名前。 この物語は、氷帝の女王とその仲間達の日常を記した物である──…。 20110901 20110902 修正 |