すっかり暗くなったなと思いながら空を見上げる。晴れているのと、ここが田舎のせいもあって星がたくさん暗い空を埋め尽くしていた。街灯が無くてよかった。星の輝きだけが私たちに降り注ぐ。
たしかに小さな山を越えて高台には登ったけれど、こんなに星が近いとは思わなかった。

「星、いっぱいあるね」

「この辺りの地域でここが一番たくさん見える場所らしい」

そう言うなり足を伸ばして地べたに座ったエレンが少し幼く見えて笑みがこぼれた。私もその隣に腰を下ろす、今日は野宿になりそうだ。一応宿は取ってあるけれど、今から戻るわけでもなさそうだし、どこで寝泊まりするかも彼に判断を委ねている。こういうことも、きっとこの旅でしか経験できないだろうから私としてはちょっと楽しかったりする。

「空気も、都会に比べたら全然澄んでるね」

「そうだな、都会じゃいくら晴れてたってこんなに星も見えないだろうし」

自然に触れるって、こういうことなのだろうか。なんだか不思議だ。彼の言う通り、同じ空のはずなのに、見えてくる景色はまるで違うのだ。エレンもきっと同じことを考えているのだろう。

「私たちが見てる星は過去の星なんだって」

「ああ、そんな話も聞いたことあるな」

「いまいちそういう感覚は分からないけど、なんか不思議だよね」

「…まあ、死んだ奴は星になる、とかよく言うけどさ」

あいつらは、この星のどれかになってんのかな。
エレンの言葉に私も空を見上げる。うん、そうだといいね。悲しそうな表情をする彼に私まで悲しくなってくる。死んだら星になるなんて、誰がそんなことを言い出したのだろう、そんな風に、本当に死がロマンチックだったらよかったのに。隣に座る彼の手を握れば小さな力で握り返してきた。

マルコやミーナたち、訓練兵のまま亡くなったメンバーは私たちみたいに二度目の命は与えられなかった。何故だかは分からないけれど、それが私にはひどく残酷に感じた。今の自分にある、この命は平等の上に存在するものではなかったのだ。どうして、彼らには命が与えられなかったのか。その答えはいくら考えようとも正確には導き出せるものではなかった。

「あの世界で誰一人、俺たちは無駄死になんてしてない」

「うん」

「俺は自分がこの世界で報われるより、あいつらの死が報われててほしい」

それは前の私たちも含まれているのか、そう考えてやめた。どうして私はこんな考えしかできないんだろう、エレンは仲間のためを想ってそう言っただけなのに。
あの奪還作戦のあと、皆は仲間の死を悲しんではいたけど、しばらくしたらちゃんと死を受け止めていた。違う、まだ皆は死んでない。現実を受け止めきれないのは私だけだった。それは今も、変わらない。

「違う。皆はまだ、死んでなんかいないよ」

少し声が震えたけど、なんとか言いたいことを伝えたくて言葉を頭の中で選ぶ。星の光に、不思議そうにこちらを見るエレンが照らされた。

「さっき、私たちは過去の星を見てるって言ったでしょう」

だから、まだみんなこの空で生きてるんだよ。
私の都合のいい言い訳に、エレンは少し驚いたような顔をしてから頷いて賛同してくれて、笑ってくれて、泣いてくれた。捻くれた考えばっかりでごめんね、でもどうしてもそう思いたかった。私たちはまだ死んでないんだよ。それは皆も同じだよ。こんなに強い光を放って暗闇の中でも飲み込まれないように、負けないように輝いてるんだから。

「そうだよな、皆まだ、ここにいる」

まるで私の存在を確かめるかのようにエレンは何度も何度も私の手を握った。大丈夫だとか、頑張ろうだとか、ありふれた慰めの言葉を紡ぐことを私は躊躇した。抽象的な言葉はいかに曖昧であり、きっと意味のない言葉なのだろう。綺麗なはずの言葉は時として醜いものになる。そうなることは何度も何度も、経験してきた。根拠なんて、誰にも分かりはしないのだ。過去の未来も、これからの未来も。

「もう、過去にとらわれるのはやめよう」

エレンの涙に私までつられそうになって、それでも流れないようにとぐっと堪えた。なんだか私まで涙を流したら駄目な気がした。
前向きに生きよう、前向きに生きよう。そう何度も思い続けているけれど、ここに在る命は思っていたよりも重たくて哀しくて、持っているのはとても恐かった。





みんなの分まで生きるなんて、簡単に言えないよ


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