「俺たちは、一体何を間違えたんだろうな」

ぽつりと呟いた彼に私は何も答えなかった。彼だって私に答えを求めるために言葉を紡いだわけではない。そもそも最初からこの疑問に答えなど存在しない。私も彼も、いくら答えを知りたくてもまるで入り組んだ迷路の中に閉じ込められたような気分だった。だからこそ彼は旅に出よう、なんて言い出したのかもしれない。私たちが、この迷路から抜け出すために。彼が言うその旅という単語には、もう昔のような純粋な冒険心や希望はまったく感じられなかった。

「お前ってほんと頼りにならねえ奴だけど、この世界でお前に会えてなかったら、多分俺は何もする気になれなかった」

「じゃあ、前よりは頼りになってるってこと?」

「まあ、そうかもしれないな」

私の頭を撫でながら彼は笑った。その笑顔は前とは違ってどこか力なくて、心もここにないような感じだった。いつから、そんな笑い方するようになったの。笑い返そうとしてもそんな彼を見てるとぎゅっと胸が締めつけられたように苦しくなって、思わず視線を下に落とした。

私たちの人生を狂わせた奴らが存在しない世界。夢みたいな、とても平和な世界。私はてっきり彼がこの世界を気にいるのかと思っていた。でも、そんなことはまったくなくて私にはこの世界がさらに彼を苦しめているような気がしてならなかった。ああ、あと何回繰り返せばいいのか。いつになったら。

「いつになったら私たちは報われるのかな」

「さあ。報いなんて今さら、もう遅いだろ」

「でも私たち、死にたくなるほど辛い思いをしてきたのに」

「…そうだな」

「こんなのって、おかしいよ」

「でも、今報われたところで過去がなくなるわけじゃないだろ」

彼の言葉に、何も言い返せなくなった。心に芽生えた少しの憤りは彼の言葉によって納得し、ゆっくりと収まっていった。たしかに私たちの記憶にある限り、過去は、過去の真実は決してなくなることはない。優しい彼の手が私の頭から離れていくのをぼんやりと見つめていた。

「俺たちはまだこの世界を何一つ知らない」

「うん、」

「だから、少しでも知れればいい。少しでもいいから、俺たちはこの世界と向き合うべきだ」

きっと、そのために今ここにいるんだと思う。
彼の言葉に私は頷いた。そうだ、何もしないで終わりを待っても何も変わらないことは前に嫌というほど学んだ。神様なんて信じないけど、きっと私たちにもう一度機会を与えてくれたのは彼の言うとおり、世界を見つめ直すためなのかもしれない。それがたとえ私たちが探し求めている答えじゃなくたって、進まなきゃ何も知ることはできない。

「準備は終わったか?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ行こう、」

扉を開けた彼に続いて外に出る。空は憎たらしいほど晴れ晴れとしていてどこまでも遠くまで青が続いていた。

どこへ行くのか、なんて質問はしないことにする。彼が行きたいところに、行きたいように、ただ私は彼について行くだけでいい。きっと彼もそれを望んでいるだろうから。彼がいるなら私はどこにだって行けるのだから、場所をいちいち把握する必要もないのだ。
この旅が少しでも彼に、エレンにいい影響を与えてくれることを祈って足を踏み出した。





この二つめの命に何の意味があるのだろう


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