ミオとコニーは真剣な顔で互いに見あってから同時に持っていた紙を机の上に広げた。コニーの紙には6、ミオの紙には9と数字が大きく書かれている。アルミンが「三点差でミオの勝ちだね」と言った後コニーは悔しそうに頭を抱えた。

「うおおお信じらんねえ!!ここ答え逆だったのかよ!」

「はい、じゃあパン半分ね」

そうミオがどこか満足そうに言うとコニーは最悪だと項垂れて机に顔を伏せた。
試験まであと三日を切った今日、ことの始まりはアルミンお手製10点満点の予想演習テストの点数で賭けをしようというコニーの提案だった。夕飯のパン半分、賭けを持ちかけるくらいには彼にも自信があったのだがその自信は難なくミオに崩されてしまった。ミオ自身も乗るからには負けるつもりは毛頭なかった。彼女が負けず嫌いというのもあるのだろうが、コニーは最近ミオは意外にも食い意地を張る奴だということを薄々と感じていた。事実、パン半分で心なしか嬉しそうな表情をしているミオが彼の目の前にいるのだ。

「それにしてもミオすごいね、応用まで出来るようになるなんて」

「これもアルミンのおかげだよ」

「は?お前はアルミンに教わってねえだろ」

「でもアルミンのおかげなの」

ありがとうね、と少し微笑んだミオと「そんな、お礼なんていいよ」と照れたアルミンの二人にコニーはますます首を傾げた。そうしていると暫くして扉から顔を覗かせたエレンがアルミンの名前を呼んだ。

「アルミン食堂行こうぜー…って、なんだコニーとミオ、アルミンに勉強教わってたのか?」

「見てエレン、私コニーに勝った」

「いや、俺はこことここの答えを逆に書いちまっただけだ、答え自体は合ってたんだぞ」

「へえ、まあそれでも一点負けたことになるけど」

「…ば、バカ言え、俺はまだまだ本気出してねえんだ!本番は絶対お前より点取ってやるからな」

なんだその点数、とエレンが不思議に思ったところでアルミンが簡潔に二人の賭けの説明をすると彼は納得したように頷いてから声を上げて笑った。

「なんだよコニー、お前自分から賭け持ち出して負けたのかよ」

「うるせー。だいたいなあ、俺はエレンが追試じゃねえのが不思議なんだよ」

お前だって座学苦手だっただろ、とコニーがエレンを見上げて言う。そんな彼の言葉にミオもアルミンもエレンを見る、そんな三人にエレンは言葉を濁しつつ頭をかいた。

「あー…それが、実は俺もあと数点逃してたら追試だったらしい」

「え、そうだったの」

「じゃあエレンはギリギリセーフか」

だったら次の追試は受けることになるかもな!とコニーが笑って茶化すが、「それは私たちも同じだよ」とミオがため息をついた。今回上手く切り抜けられたとしても座学の試験はこれから先もある、追試受験者もまたいつ出されるかは分からない。そう気を抜いてられないということが今回で散々思い知らされたのだ。そう言ったミオにコニーは言葉を詰まらせた。

「あーもう俺たちは今勉強してるからいいだろ、勘弁してくれ」

「これだけ勉強していれば次も大丈夫だと思うけどなあ」

ミオもコニーも十分頑張ってるじゃないか、とアルミンが微笑む。するとエレンはアルミンの隣に座るなり机に置いてあった資料を手に取った。

「よし、じゃあ次は俺が二人に問題出してやる」

「なんだよ急に」

「追試で落ちて兵士辞めるなんて情けねえだろ、いいのかよそれで」

俺が手伝ってやる!とでも言わんばかりにエレンはやる気に満ちてた目で前の二人を見た。ミオとコニーは一日中訓練の合間でさえ勉強して疲労がだいぶ溜まっていたがエレンのもっともな言葉に断る気にはなれなかった。

「…ったく、そんなに勉強してえならお前に追試の席譲ってやりたいぜ」

「…まあ、コニーより早く答えられる自信はあるけど」

そうして再び闘争心を燃やす二人をアルミンは微笑ましいなあと思いながらも眺めていた。
ここ数日での二人の努力は凄いものだった。コニーは内容を理解するのに多少時間が掛かるが彼は一度も諦めることをしなかった。彼の背景に何があるのかはっきりは分からなくとも、何か強い心の支えが彼にはあるのだろうとアルミンは感じていた。ミオは最初こそ勉強に意義が見出せないという感じではあったが、周りからの協力もあってか着実に実力は伸びているのだ。少しずつではあるものの確実に周りに心を開き受け入れていっているのが分かる。彼女はもの難しい人間のように見えて、ほんの少し背中を押してあげるだけでよかったのだ。以前とは一変して表情にも変化が出て、少しずつ人を避けずに自身から歩み出るようにもなっている。この二人ならきっと合格してくれるだろう、アルミンは何となくそう思えた。

「よし、どんと来い!」

「…あ、その前に」

そうしてミオとコニーの間に火花が散り二人にやる気が満ちた中、先ほどまでのやる気はどこへ行ったのやら「腹へった、先に飯食いに行こうぜ」とエレンがあっさり席を立ったことはその場の誰にも予測出来なかった。


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