あなたの心情 | ナノ







※来神
※前半三者視点、後半臨也視点
※オチが酷い





「桜咲いてるね」
「そうだねー。桜バックに写真撮ってあげようか?」

春の暖かい陽気に包まれた昼過ぎ。久しぶりに授業が午前で終わり、それこそ意気揚々と帰路につく生徒の中で、臨也と新羅は道のりを歩みながらのんびりと満開になった桜を眺めていた。
携帯を取り出そうとする臨也の捻くれ者な彼にしては珍しい素直な好意を、先生に見つかるよ、と断って新羅はくるりと臨也へ向き直す。

「それにセルティにはもう桜の話山ほどしたからね」
「そう?話と写真じゃあまた違うと思うけど」
「昨日だって話したんだ、更に写真まで見せたらしつこいととられちゃうからさ」

困ったように眉を垂れさせながら、昨日の出来事を話し始めた新羅の視線は既に桜に戻っていた。なら、と臨也が長ったらしい話に口を挟む。

「今日、花見しようか」

いつもなら、いくら割り込まれようが己の回想に想いを馳せ続ける新羅も、思わず口を噤み意識を移す。
風で花びらが舞って、同様に髪も靡いた。

「昼食べてからにする?夜にする?…まあ、新羅が良ければだけど」
「僕は今日は夕方も夜も空いてるよ」
「へえ、珍しい」
「今日はたまたまセルティが忙しいからだけど、やっぱり少しは友達と遊ばないと心配かけちゃうからね」
「そっか。じゃあ、夜桜にでもしようか」

私達2人だけ?と笑みを含んで問う瞳に映った臨也は、たっぷりと間をおいてから観念したように小さく溜息をつく。同時に伏せられた睫毛の隙間からはなんとも素直じゃない赤が窺えて、新羅は思わず笑ってしまった。

「仕方ない、ドタチンも誘うか」
「えー。静雄は?」
「…えー。新羅シズちゃんに来てほしいの?」

臨也の拗ねた子供を連想させる唇を出す仕種に、君だって来てほしいくせに、とは敢えて言わずひたすら同意の意を伝える。伝える度に頷けば、渋い顔をしていた臨也も困ったように眉尻を下げた。

「はあ、じゃあシズちゃんは新羅の担当ね。俺はドタチン誘うから」
「うんいいよー。…あ!わざわざ花見行ってまで喧嘩しないでね?」
「なにそれ。喧嘩の始まりはいつもシズちゃんだから!」
「いや発端はいつも君だろう」

くすくす控え目に笑う新羅の口許を黒髪がちらちらと見え隠れさせている。その頭上に桃色の花びらがひとつ紛れ込んだ。それを偶然視界に入れた臨也は、そのまま黒髪全体に視線を落とす。
風が強いとは思っていたけど、ここまでとは。
今まで気が付かなかっただけで、新羅の髪には既に沢山の花びらが混じっていた。
しかもそれが、歪ながらも円を描いていて。このまま放っておいたら花輪になるんじゃないか、と心中に芽生えた小さな好奇心を他所に、臨也は手を伸ばしまずは一つ払いのけた。
何も言わずいきなり手を顔へと寄せたからか、新羅は小さく肩を跳ねさせ瞳は光を反射させた。
そんな様子は視界にばっちり入ったが、知った事ではないと桜を髪と共に触る。

「いっぱいついてるよ」
「え、…あ、花びら?」
「うん」

新羅は髪長いからね、と臨也が零す。
すると無言で新羅が手を伸ばした。対抗するかのように突然伸ばされた新羅の手の先には、桃色を一つ乗せた黒髪。

「臨也もついてるじゃないか」

取った花びらをひらりと臨也の視野に映すと、一際強い風が生暖かい空気を一掃した。
突然の強風に、指に挟まれていた花びらは勿論、髪についた花びらまでが飛ばされ、気付いた時には既に桜吹雪ごと視界から消え去っていた。
風に乗った花びらを呆然と見送って、新羅が呟く。

「…髪ぐしゃぐしゃ」
「俺もだよ」
「臨也は短いからいいよ、俺なんか君の2倍あるんだからね」

面倒臭そうに乱れた髪に手櫛を通す中でも、風は花びらを運んで瞬く間に屋外の人々の髪を靡かせていった。







****







「と、いうわけだけどー」

現在午後5時、待ち合わせ場所にて。
目の前には我等が母ドタチン、右には影の深まった木々、左には変哲もないただのベンチ。
本当に普通で平凡でただそれだけなんだけど、現在の俺にはそれがとても不満な訳だ。
なんでかって、そりゃあ、

「なんで新羅にシズちゃん来ないの!!」

俺の周りには約束した筈の3人中1人しか集まらなかったからだ。

いや、まあぼっちじゃないからまだマシだけど、あくまで“マシ”だ。決して最善じゃない。
勢いに任せ思わず声を荒げて、近くを通りすぎた社会人に横目で見られたが気にしない。気にしたら負けなんです、こういうのは。

「用事でも出来たんだろ」
「だったら連絡くれてもいいと思わない!?新羅携帯持ってるし、俺の番号知ってるじゃん!」
「面倒臭くなったんだろ」
「酷…!くそ、それに比べてドタチンはいい奴だよね」

俺の愚痴に小さく溜息をつくドタチンの背中へ抱き着く。目の前に広がったのは学生服特有の堅さを持った黒ではなく、ラフな私服のドタチンに合った色。
一度抱き着くと落ち着いてしまって離れがたくなるのが難点だな、と頭の片隅で思いながら肩口に額を押し付けた。
ぐりぐりと額に力を込めるとドタチンが短く呻く。継いで、優しい咎めの言葉がかかった。

「臨也、痛い」
「うん、ごめんー」
「謝るなら続けるな、離れろっつってんじゃねえんだから」
「うん、ごめん」

謝りながらも頭をなすりつけるのをやめない。自分でも我が儘だと思う。こうやればドタチンが諦めてくれるって解った上でやっているんだから。
はあ、楽しみにしてたのにな、思わず閉じていた目を開けた。
新羅ならシズちゃんを連れてきてくれると思っていた。あいつは俺の気持ちを知ってるし。
開いた視線の先には、傾いてきた太陽に朧ながら照らされている街。大通りの両脇を彩る桃色は、昼とかわらず風で紙吹雪みたいに花びらを飛ばしていた。

「残念だったな」
「何が?」
「岸谷来なくて」
「ああ、まあ、人並みにはねー」

一瞬どきっとしたのを隠蔽するように心が平静を装う。少しだけ、少しだけシズちゃんの事を言っているのかと思った。
事実、違かった訳だけど。

「お前好きだよな」
「新羅を?ええ、ドタチンのが好きだよ」
「違う違う」
「えー?嘘じゃないよ。…多分」
「多分て」
「いや、実際俺自分の事今一解ってないところ多いから」
「そうなのか、…ってそうじゃなくて」

ドタチンが一歩前に出た。俺はそれに従う訳でも逆らう訳でもなく、回していた腕を自然と離す。
くるりと振り向いたドタチンと、一歩分の間隔を空けて目が合う。
そこから、打って変わって流れ始めた神妙かつ真意の掴めない空気に、少し冷や汗をかきそうになって、何もせず――いや、正確には何もできず――俺はただ突っ立っていた。
ドタチン視線や表情は相変わらず綻んでいるのに、どうしてかざわりと胸が冷気に包まれる。

「お前、静雄が好きなんだろ?」
「……え?……なん、」
「だってお前静雄しか見てねえし。岸谷もそんなお前らしか見てねえし」

もう、呆気にとられる他なかった。

「……門田くん」
「え」
「……しん、ら」

上から新羅、ドタチン、俺。途端にさああ、と血の気がなくなる感覚。
ゆっくりとドタチンが振り向いた。その先には新羅が間抜けに突っ立っていて、その顔がまた「やっちまった」みたいな感じで。
新羅の左手が裾を掴んでいる。新羅自身のではない、別の人の裾を、まるで逃がさないように、しかし無闇に反抗する気はないと主張するかの如く弱々しく、掴んでいて。
俺は、新羅の手から裾へ、裾からその人物像へ視線を移した。

「……門田」
「静、雄」

いたのは、――もう言うまでもない気がするけど――シズちゃんだった。





















「っていう甘酸っぱい来神臨静なんてどうかなあ!」
「狩沢さん、いい加減妄想長いッス!それに3次元のBL妄想は止めて欲しいって何度も、」
「あのね、この後気まずい雰囲気で4人は花見を楽しむの!そこでひたすらイザイザは心中葛藤するもよし、開き直るもよし!そのまま片想いエンドでもよし、このまま二手に別れてどうにかなってハッピーエンド、そして愛を育むのもよs、むぐう!」
「もう自重するッス!」






あなたの心情、
私の恋心







 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
最後の狩遊馬何で入ったのか私にも謎です…(笑)
一応臨静ですよ!片想い(っぽい)ですが!
違うCPがあるように見えても、臨静以外は+のつもりです〜。

あと私は来神に夢を詰め込み過ぎかもしれないですね



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