※今更ながらバレンタインの話 ※モブの女の子がやたら出しゃばっています ※なんだか夢小説のよう ※臨→静 「平和島くん!これ、どうぞ!」 名前を呼ばれて高い声色を探す。探した先には見覚えの無い女子が、俺の方に目一杯両手を突き出して立っていた。 「………はあ、?」 「あっ、あと、これ、お友達の、なんだけど、」 「…はあ」 「私のも含め、食べなくてもいいから!えと、押し付けるようで、ごめんなさい、」 目の前の知らない女子が、朝早い廊下で、人がいないといっても校舎の廊下で、俺に向かって何かを差し出している。 幸い俺は機嫌が悪い訳でもなく逆に良い方だったので、知らない奴に物を貰っても別に臨也を連想させることもなく、何となくそれを受けとった。 「あっ、じゃ、じゃあ用はそれだけなので!失礼しました!!」 「え、」 俺が受けとるのを待っていたんだろう。俺の手にそれが渡ったのを認識するなり、女子は素早い動きで深くお辞儀をし踵を反して去っていった。 いきなり現れて何の説明もせずに物を渡して帰っていった女子に取り残され、誰もいない廊下に残ったのはぽかんとした俺と、両手に乗っかった、女子高生にしては落ち着いている綺麗な包装紙とリボンに包まれたそれだけだった。 先程のいかにも地味な部類に入りそうな雰囲気だった女子の姿は、もう角を曲がってしまって見えない。 詳しく事情を聞きたいが、名前なんて知らないから呼び止める事もできない。 と、いうか。 (なんだ?これ) 手に乗った2つを見つめる。名前でも書いてないかと色々な角度から見てみるが、出迎えてくれたのは包装紙の柄だけで、それらしい文字はどこにもなかった。 「あれ、静雄早速貰ったの?」 廊下の静寂を破ったのは新羅で、突然現れては目の前から俺の手元を覗いてきた(というか居た事に全く気付かなかった。それだけ俺がこれに集中していたのか、それとも新羅が空気だったのか)。 「…新羅。はよ」 「あ、おはよ。…わ!2つも!…義理…じゃないよねえ君相手だし」 うんうんと俺のわからない所で納得している新羅は何だかいつもよりニヤニヤしている気がして、ちょっと聞いてみる。どうしたんだ、とうとう病気になったのか? 「あっ、やっぱりニヤけてる?駄目だなー、セルティ絡みになるとどうも!」 「セルティ?」 「うんうん、今日ね、朝からくれたんだよ!ちょっと照れながらね、しっかりと!!」 「へえ。何をだ?」 「…えっ」 「え」 「…え?」 「……え、?」 なんだか話が食い違っている気がして、それは見事に命中したようで、互いに顔を見合い「え」の連発。 でも例え連発してもわからないものはわからないので、大層間抜けな顔をした新羅を見つめる。口が「え」の形に開いたままで、なんだか面白い。 「……静雄、今日、…何日?」 「……は?」 いきなり何を言い出すんだ。えっと、確か今日は…、……。 …あれ。 ど忘れしたみたいで脳内に数字が浮かばない。更には曜日すら浮かばない。仕方なしにポケットから携帯を取り出す。パカ、と心地良い音を発て片手で開けた携帯の待受画面には、2と14の文字。 「2月14だとよ」 「…うん。…それで?」 「はあ?」 「2月14日な訳だよね。…それで?」 「…はあ?」 訳がわからない。今日は何かあるんだろうか。記念日?新羅や一般生徒、更にはセルティに関係している、記念日。 …記念日?…何か引っ掛かる。……記念、………あ。 「バレンタイン」 ひとつ、頭に引っ掛かった単語を口に出す。途端、新羅が深く息を吐いた。 「気付くの遅すぎ」 呆れきった顔の新羅は思いっきり肩を落として。そんな新羅を前に俺はひたすら手の上の包装されたそれに意識を奪われていたり。いや、だってよ、今日がその、バレンタインってなら、 「これ、チョコか?」 「そうだろうね」 衝撃。 今まで貰った事なんてなかったバレンタインのチョコ。 なんだかこの17年間触った事のなかった物に(いや母親からは貰った事あるが)、逆に不信感が募る自分が嫌になる。 「よかったじゃん静雄」 実際、隣で笑う新羅の言う通りに嬉しさが込み上げてくるのは、まだまだ先の事であった。 「はああ緊張した…」 「お疲れ様」 「………」 問題児として超が付く程有名な平和島くんに惹かれたのは、今から半年くらい前の事。 確かに好きになったけれど、あの頃も今も近寄る事は決して無いと思っていた。…のに。 「シズちゃんどうだった?普通に受け取ってくれた?」 この目の前の男に目を付けられてから、何故か、本当によく解らないままチョコを用意して、何がなんだか解らないまま気付いたら平和島くん本人に渡していた。 この目の前の短ランに赤シャツの男は何が楽しいのか常時ニヤニヤしていて。この男の口車に乗せられてこのような結果になったのは確実だから、なんだか最後の抵抗に、少しだけ刺々しい雰囲気で話してみる。 「きっとよくわかってなかったよあれ。…でも手に取ってくれたから、」 「そのまま逃げて来ちゃったんだ?」 眉目秀麗が微笑む。人の台詞を横取りした中二に思わず眉根が寄るのは、仕方が無い事だと思うから、見逃して欲しい。 「……変なの」 「何が?」 最近は専ら、ケラケラ笑う男の真意が掴めず困惑する日々。今回だって外れてなくて、チョコ渡しちゃったし。 それに私は今まで折原くんは平和島くんを嫌いなんだと思ってた。本人も言ってるし、いつも喧嘩しているし。 でも、最近は良くわからない。 「だって私に直接渡させるなら、折原くんが渡せばいいでしょう」 そうだ、実にその通りだ。 なんで私が渡したのに折原くんは渡さないんだ。 「そんな…言っちゃったら面白くないじゃないか」 ――俺からのチョコだ、なんてさ。 目の前の眉目秀麗は、楽しそうに笑っている。先程私が“友達の分だ”と渡した物に、毒物か何か入っていない事を心の底から祈ったのは、言うまでもないだろう。 まあ平和島くんが食べてくれるかはわからないのだけれど。 今日も、折原くんは笑う。人によっては反吐が出る様な笑みや、またはうっかり惚れ込んでしまう様な笑みで楽しそうに言葉を紡ぐ。 因みに私は確実に前者だ。後者とか、折原くん相手になんて絶対にない、有り得ない。 今日も、やたら頭の回る質の悪い問題児は笑う。 自分のチョコレートを大嫌いな相手がどのように食べ、その差し出し人が自分だとわかった時の未知なる顔を思い馳せて、うっすらと携帯を弄っている右手に力を篭める。 それが私にはただの無自覚ながらの嫉妬にしか見えなくて、心の中でほくそ笑んでやった。 はっぴーはっぴー バ恋タイン...? (゜д゜)? よくわからないだなんて…それがここの通常運転です^▽^ |