暖かい陽射しに思わず瞼が重くなるのを感じて、座ったまま固まった筋肉をほぐすべく立ち上がる。 ぱきぱきと関節の音を耳にしながら思いっきり伸びをして、はあ、と一息。 今臨也さんとサイケと津軽が静雄さんの家に行っていて、ちょうどこの高級マンションの一室にはデリックと俺しかいない。 本当は皆について行っても良かったのだけれど、余り大人数で押しかけるのも申し訳ないなとデリックと残ることにしたんだ。 提案したのはデリック。それに賛成したのは俺。 そういえば最近あまりデリックと2人きりになる機会が無かったから、いい機会だとも思った。 あ、いや、別にやましい意味ではなくて、ただのんびり出来ればいいなあって。いやいや本当に。別に何かあればいいとか思ってないから。本当に! …デリックはどうなのかな。皆が出かけるなり自室に篭ってしまったデリックを考える。 篭った部屋を見つめて小さいため息をまたひとつ。出てこないという事は俺と一緒に居たくないってことだろうか。 「……………」 見つめ続けてもドアが開く様子はない。更には人が動く気配すらない。 「…………」 あの部屋に鍵はかかっているんだろうか。あの部屋へ押しかけてもデリックは嫌な顔をしないだろうか。 ぐるぐるぐるぐる。嫌な考えばかり思い浮かぶ脳裏に嫌気がさす。どうせ何も行動できないくせに、ひたすら活発な脳にも嫌気。 情けないという言葉は俺のためにあるんじゃないかと錯覚する程、何もできない。いっそのことサイケ以上の行動力があれば、と何回思っただろう。 座っているソファーをひと撫で、同時に思い浮かぶ愛馬に僅かに和む。そして、再びため息。 途端、ガチャ、と俺のため息に被って軽い音。…なんだよ今更出てきて。今更来たって、……来たって、 …………え、 「……っ出てき…!?」 「日々也ー!昼寝しようぜー!」 「……え」 にこにこと、それはもう周りに花が飛ぶくらいに笑顔なデリックが俺の目の前に。そしてその右手には、一枚の薄手のブランケットが。元々きらきらな濃い桃色の瞳は光を含んで更に輝いていて。 「…デリック、いきなりどうしたの」 「んー?」 本当にいきなりどうしたの。今までの篭りっぷりは一体なんだったんだ。 性格上口に出せずに喉元で留まる数々の文句をそのまま飲み込むと、デリックがさも当たり前のように隣に座った。勢いよく座った反動でソファーのスプリングが少しはずむ。 「…さっきまで、何してたの?」 「はは、…実はさ、恥ずかしいことに爆睡してしまいまして」 「え、寝てたの」 「ん。だからまだ眠いんだ」 ほんのり照れながら伸びをするデリックは確かに少し眠そうだ。桃色なんてなんだか潤んでいて。 …それにしても、寝ていたのか。 予想外な返答に丸くなった瞳が写すデリックは相変わらず暢気そうで。俺のネガティブ思考が現実にならなくてよかったと心の底から思った。 「なあ、日々也寝ない?よかったら一緒に寝ようぜ」 肩と肩が触れ合うくらいの距離に、更に僅かながら顔を近付けてくる様に情けないがどきまぎしてしまう。白い肌とか、さらさらした金髪とか、意外と長い睫毛とかが無意識に俺の目線を支配する。 近いよデリック! 俺がこの至近距離から逃れるようにひたすら頷いたのを見て、どうやら満足したらしい。手にしていた一枚のブランケットを俺達の膝にかけるなり、なんて事だろう、デリックは俺と体をくっつけてきた。 ぴったり触れる肩やら腕からの温もりに、驚きつつも体中の熱が急速に集まり焦燥。更には触れた局部が心情の赴くまま異常な熱を放ちそうで。 この熱を相手に気付かれたくなく必死に心を鎮める俺の視線はさぞ怪しかっただろう。 「ね、寝るの?本当に?」 「おう。どうせ皆帰るの遅くなるんだ、好きなようにやっちゃおうぜ」 "好きなように"が昼寝なのか。少々突っ込みたい気もしたが、隣の金髪が早々に船を漕ぎ始めたのでそんな小さい事は頭から消滅。 ようやく落ち着いた熱に安心しながらデリックへと視線を移すと、目を弱々しく擦っている姿が。 「……そんなに眠いの」 「…ん」 そう頷きながらも小さく欠伸をひとつ、更にはもう瞳が既に伏せられていた。どれだけ眠いんだろうか、今の一言を最後に口を閉ざすデリックに思わず苦笑する。 隣からとうとう規則正しい寝息が聞こえはじめ、このまま起きているのも暇であるから自分も寝てしまおうと考える。あどけなさの残る寝顔を一瞥しつつ背をソファーに沈めた。 「…おやすみ、デリッ、…ク、」 とん。俺が寝ようと気を緩めた直後。 僅かながらしっかりとした重みに思わず緊張が走り、恐る恐る視線をずらす。ずらした先には、デリックの金髪。が、俺の、肩に、 (―――っ!!) う、わあああ!? め、目と鼻の先に、金髪が…! 予想外な急展開でこんがらがった頭はもうぐちゃぐちゃに絡まっていて。 隣からは男のくせに柔らかい匂いがしたり髪の隙間から整った顔がのぞいていたり。 思わず熱が顔にまで集まり咄嗟に顔を逸らす。 今の振動で起こしてしまったか。未だ熱の篭った顔で再び恐る恐るだが覗いてみる。よかった、相変わらずの規則正しい寝息は健在で安堵からのため息がひとつ。 (………寝たふりだよ、ね?) たとえどれ程眠かろうが何と言っても先程目を閉じたばかりなんだ、まだ意識があるかもしれない。というか、意識があるほうが普通だ。 ただそうなると俺の肩に乗った頭は確信犯による犯行という事になるけれど。 「………デリック…?」 ぼそり、小さく名を紡ぐ。反応はなし。もしかしたら本当に寝てしまったんだろうか?隣の金髪を疑わしく思ってしまうのに少し戸惑いながら、再度確認と鼻の頭を人差し指で突いてみる。 (……………反応無し…) やはりというところだろうか、デリックの反応はなかった。ぴくりとも動かないまま寝こけている。 (本当に寝たのか…。……というか、…心臓うるさい) デリックがくっついてきてから全く治まらない煩い心音。ばくばくと忙しなく鼓動する心臓を叱咤したくなる。 もしかしたら体を伝って聞こえてしまうかもしれない。それがどうしても心配で、何度も表情を確認してしまう。 落ち着きたいのに、寝顔を見る度に鼓動が治まるどころか激しくなるだなんて、これじゃあまるで恋する女の子じゃないか。 デリックはいつも何も気にせずに行動しているように見える。けれど俺はどうだ。ひとつひとつデリックの言動に振り回され、喜憂を左右されている。 それに今だって一人で緊張して赤面して、同時に嬉しくて。 (…俺だけ…。…悔しいな、) はあ、とため息。 すぐ横ですやすやと随分安らかに眠っている恋人の寝顔は少々間抜けで、このまま涎を垂らしても可愛く思えてしまう程和やかで。 「……お姫さまー」 間延びした軽口を叩きながら俺の頭上を飾っていたものをゆっくりと金髪へとずらす。黒髪から金髪へと移ったそれはなんだか俺の上よりも綺麗に映えていて苦笑が零れた。 「あはは、似合ってる」 きらきらの上に更にきらきら。輝きすぎてこれがデフォになったら目に痛いかもしれないなと思いつつ、落ち着いてきた心音に安心した。 (……あ、……眠い) ふと瞼が重く感じる。鼓動が落ち着いた事もあり、隣の熟睡っぷりに感染でもしたんだろうか、脳も微かに霞んでいる気がする。 もう寝てしまおうか。隣は熟睡、陽射しは橙。きっと皆の帰りもまだまだ先だろう。僅かだが隣の存在に慣れてきた事だし本格的に寝てみようか。 霞みきった脳を無理矢理起動させてズレてきた毛布を直し、デリックの呼吸に不安定に揺れる装飾品をソファーの上に移動させる。 「…おやすみ」 あとは導かれるまま眠りにつくだけ。彼と触れている部分は未だ熱をもっているし心臓は少しうるさいが、霞んでぼやけた意識のまま、ゆっくりと眠気に飲み込まれた。 お留守お守りで夕焼け小焼け 「ただいまーっ!」 「…ただいま」 「ただいまー。2人とも留守番ありがと………あれ、…寝てる」 「わあ2人とも仲良しさんだねー!」 「…熟睡してる」 「……そっとしておこうか」 「はーい!」 ――――― 日々也さん別人すぎて笑った けれど元々うちの日々也さんは別人でしたねっていう^ゝ^ こういうの書くの恥ずかしいですが書きやすかったです(*´▽`) |