ふだんしんら (※腐男子新羅) 教室ががたんがたんと音をたて、崩壊。今日はどれくらいだろう、半壊かな? 「今日ね、シズちゃんたら俺の顔狙ったんだよー」 「いやいつも狙ってるだろ?」 「うんまあそうなんだけど、今日は特に狙ってた」 夕暮れ時、閑散とした教室で新羅は臨也と門田の会話に静かに耳を傾ける。 「そういいながらお前だって相当際どいところを狙ってるだろう」 いやに間延びした臨也の言葉に門田はため息をひとつ。新羅はそんな2人に未だ静かに耳を傾け続けた。 「……あーあ…。……シズちゃん早く死んでくれないかなあ…」 膝を立てつつ頭を埋め、所謂体育座りになって門田よりも更に深いため息をつく臨也は、相当静雄に参っているようだ。 「じゃあまたどっかのやつらを仕向ければいいだろ」 「そんな事言ってドタチンシズちゃんの味方の癖に。…それにさあ、シズちゃんは俺に殺されなきゃ駄目なの」 思わず金髪が脳裏を過ぎって怠慢な脳を叱咤。何が楽しくて彼を思い出さなきゃいけないんだ。臨也は小さく舌打ちをかます。 「ねえ、ドタチン、新羅。シズちゃんってどうすれば死ぬの」 ぽつりと小さく呟かれた言葉は2人の耳にしっかりと届き、しばらく消えないほど染み込んだ。 そして、それに不謹慎だと思いつつも、新羅は高揚を覚えた。臨也の言葉一つ一つに、心を鷲掴みにされた気分だった。 「お前がいくら頑張っても無理なら、俺達には到底無理だろ」 そんな落ち着いた門田の言葉も見事に耳からすり抜ける程、新羅の胸は高鳴っていた。 新羅は所謂腐男子と呼ばれるものの一人だった。その中でも大抵の者は女同士の恋愛事にときめきを覚えたりしているが、新羅はまさに逆だった。 新羅は、男同士の恋愛事が好物である。 それは、彼以外誰も知らない企業秘密。たとえ最愛の同棲人であろうともこの事実は知らなかった。 最初、新羅は2次元の同性愛そのものに惹かれ、そこから女同士のではなく、男同士のものへと傾き始めた。だが新羅は決して現実と妄想を混濁させてしまうような人種ではなかった。 元々2次元から好きになっていったためか、3次元の同性愛に胸は動かされなかった。というよりも、逆に冷めた目で見てしまっていた。 そんな中、彼は静雄と臨也の2人に出会う。 最初静雄と出会った時、新羅はすごい自身の高ぶりを感じた。解剖をする身としては、静雄の身体は異常なまでに感動を覚えるものとして心に刻み込まれた。 そんな気持ちが廃れないまま、高校にあがる。 高校に慣れてきた頃、西日を浴びながらセルティへの愛を咲かせている中、とある女子の話題が耳に留まった。臨也だか静雄だかの名前が忙しく紡がれているように感じ、好奇心程度で耳を傾けてしまった。 これが、いけなかったのだ。 もうこの時、新羅はとっくに腐男子であった。気付いたら好きなキャラクターをいいように脳内変換してしまう程、その世界にどっぷりであった。 だがしかし同時に、未だ新羅は純粋であった。 未だに、3次元をそういう目で見たことが全くなかったのだ。 しかし、その女子達の言葉を聞いてしまうことが、新羅の世界が180度…とまでは行かなくとも、随分と変わってしまう事になる。 きゃあきゃあと小さめに騒いでいる女子数人の言葉から漏れる問題児2人の名前。その女子達とは誰が見ても不釣り合いだと思う程、問題児として悪目立ちしている2人の名が出てくるのに新羅は純粋に興味をもった。 何故あの2人の名が地味めな女子達の口から? 新羅は本当に純粋に興味をもった。 女子達の会話が最高潮になるにつれ、声が大きくなり聞き取りやすくなる。 そこで驚くことを耳にした。 『平和島くんは受けだよ』 『え、私折原くん派』 『静臨?静臨?』 『臨静でしょうここは!』 『ごめん私門静派だ』 『『『…おおー…!』』』 “平和島”が受けだとか“折原”が受けだとか。思わず体が固まった新羅の耳に留まった姓2つは、どう考えても知り合いの2人のだとしかとれなくて。 (……え、今時の腐女子って3次元にまで手出すの?すごいなあ…) 新羅は回転の早い脳で瞬時に内容を理解する。ここで、止まればよかったのだ。 「すごい」という感想だけで、セルティへの愛へ意識を戻せばいいのに、何を間違ったか想像してしまったのだ。臨也と静雄が恋人であったら、とまさしく間抜けな妄想を、脳内にはびこらせてしまったのだ。 そして、まさか気付いたら自分から食いついていて、更には妄想までしてしまっていて。 ――そう、所謂、新羅は3次元、というか臨也と静雄のカップリングに、果てしない萌えを感じてしまったのだ。 続く すごい中途半端ですみません´` |