恋愛エストール | ナノ







※最終兵器彼女パロ
※原作を読まなくても読めると思います、多分。
※それくらい捏造だらけです。

※原作にそってません!及び原作クラッシャーが許せない方は申し訳ありませんがお戻り下さい。














「シズちゃん、シズちゃん!!」

見つからない、見つからない。
あの金髪や、長身や、あの俺を呼ぶ低音も。


本来なら日中には青が広がっているはずの空を目一杯仰ぎ見る。昨日は青の上には雲くらいしか無かったのに、今では国の精一杯の勢力である自衛隊が一面に広がっていた。
青を塗り潰している中途半端で人工的な機械色が不気味だ。
はぁはぁと自身の口から吐かれる息は荒く、体力の限界を現していた。一体どれ程走ったんだろう。
学校で地震が起きて、それが今まで以上に大きくて。新羅とドタチンはまだ軽傷だったからきっと今頃避難しているだろう。他のクラスメイトはわからない。もしかしたら死んでしまった生徒も先生も、一般人すらもいるかもしれない。
今まで冷静に自己中心的に状況を判断して、事態をいいように弄んできたこの頭も今ではうまく働かない。2人の安否を確認するだけで精一杯だ。
疲労感が込み上げてくる中走り続けて、妹を思い浮かべる。あの2人は無事だろうか。今頃は小学校だ。きっとあいつらの事だ、力を合わせてしぶとくやっているだろう。…でも、やっぱり怪我してるかな。
傷からの流血を拭っている幼い双子を連想してしまって必死に思考を振り払う。いくら考えても仕方ない。それに、こんな事を考えていたら近いうちに転んでしまうだろう。
学校で新羅とドタチンを確認してから、シズちゃんが居ない事に気付いたのはすぐ。何処にも見当たらなくて、校舎の窓から身を乗り出して空を見たら、翼を生やした殺戮兵器が大量にいて。数秒眺めて光景を脳裏に焼き付けると、気付いたら走り出していた。
校舎を出て、空を確認しながら足を動かし続ける。速度は俺の中での全速力。なりふりなんて構って居られず、目指すは荒野。以前政府のお偉いさんのおかげで荒野となった、元住宅街だ。

「シズちゃ…っ、はぁ、シズちゃん、…げほ、」

疲労に息をするのも苦しくなってくる。やっとの事で荒野に足をついて何気なく振り返ったその先には、随分と風景に紛れ込んだ学校がもの淋しく突っ建っていた。
瓦礫以外何もない野原をきつい目つきで見回す。
瞬間フォン、と風が鳴った気がして再び空を仰ぎ見ると、空を埋め尽くす自衛隊の中にひとつ、不規則に飛び回っている光をみつけた。
光から目を逸らす事が出来ず思わず凝視してしまう。光が他国の戦闘機の群れに突っ込んでいく。素早く何回も折り返しを繰り返す動きに、冷汗が背中を伝う。

「シズちゃん……」

シズちゃんと俺は付き合っている。付き合ってから未だ3ヶ月と少ししか経っていないが、元から問題児として有名だった俺達は、付き合い始めて約一週間程で全校生徒に知られてしまった。
人気者ってつらいよね、なんて軽口を叩いていたあの頃が懐かしい。そういえば告白は俺からだったな。シズちゃんのあの真っ赤な顔は可愛かった。ああ、懐かしい。
光が戦闘機を次々に撃ち落としていく。戦闘機の落ちた先はきっとこの荒野のようになるんだろう。ご愁傷様、きっとまた沢山の人が亡くなる。
人が死ぬのは悲しい。それこそ人並みか、それ以上に。人間を愛して止まない俺にとって、全くの無関係な他人の死も胸にくる。

「あっ、」

戦闘機に突っ込んでいた光がぐらりと傾いて、こちらに向かって落ちてくる。光は轟音と砂埃を立て俺の少し離れた先の荒野に着陸した。光を受け止めた地はきっとその膨大な威力に見るも無惨な姿になるんだろう。
光が落ちた際に生じた爆風に周りの瓦礫達は縦横無尽に飛び散り、その内の一つが俺の額を掠めた。
瓦礫と額のぶつかる嫌な音と瞬時に走った痛みに顔をしかめる。顔を腕で庇っていたおかげか他の部位に大きな負傷は見当たらなかった。
爆風と共に舞っていた砂埃にやられた両手を掃い、学ランも同じく掃う。額から垂れてきた血を拭いつつ足を進めた。傷はそれ程大きくなかったらしく、拭っても流れは止まらないが痛みはそこまででもなかった。

「げほ、」

砂埃を吸ってしまったのか正常に作動しない喉をおさえながら地を踏み締める。嫌な知らせを受けとった心臓がうるさい。
こんなに光を追いかける理由。ここに自分の身を冒してまで来た理由。そんなの考える必要はない。
砂埃が晴れていく。砂埃の先には光の正体があるはずだ。この俺がらしくもなく全速力で走った理由も、この胸騒ぎの理由も、この先にあるはずだ。
砂埃が、晴れていく。砂埃の先には、光の正体があるはずだ。

―――ああ、よかった。


「………臨也…?」


砂埃の隙間から金髪が揺れるのが見える。所々にかすり傷を負った白い肌にスタイルのよい長身も見える。
砂埃の舞う煙りが晴れた。こちらを見つめる瞳は虚ろで、いろいろな負の感情を滲ませていて正直見るに耐えない。
だけれど一気に安堵した。よかった、どうやら無事みたいだ。
この彼は俺の恋人だ。俺の大好きで、愛しているたった1人の怪物。
気付いたら俺は彼を抱きしめていた。細身の長身を思いっきり抱きしめる。痛いくらい、抱きしめる。

「シズちゃん、心配したよ」
「……」
「いつの間に飛んでたの」
「……」
「大きな怪我とか、ない?」

彼――シズちゃんの右腕を抱き着いたままゆっくりと宥めるように撫でる。生身である右肩から、無機質な塊が歪で機械的な形状をつくり生やしている姿はもう人間のそれではない。まるでライフルのような歪なそれは細身の彼には到底似合わない程大きく重そうだ。
撫で続けているとシズちゃんは俺の体を押しのけて、震える瞳で自身の右腕を隠すように緩く抱きしめた。
彼特有の力強さで押された俺は数歩よろけ、ぱちぱちと目の前の琥珀を見つめる。

「やめろよ」

俺を写す瞳は、ひたすら悲しい色をしていて。

「俺に近付いたら臨也死んじまう」

静かに形状を変え人間の腕となったものは寂しそうに彼の体からぶら下がっていて。

「俺が間違ったら一発で、」
「そんなことない」

泣きそうな顔するのやめて、シズちゃん。そんな事言うのやめて、シズちゃん。

「君は人間だよ。昔も、今も、……人間、だよ」

そっとシズちゃんの右腕に触れる。もうあの歪な姿が跡形もなくなった右腕は、破れた制服により白い肌が露わになっていた。
ぺたぺたと頬やら体やらを確かめるように触る。大きな怪我はないようでひとまず安心した。

「……だってよ、俺、さ」


最終兵器なんだぞ。


静寂の中でしんみりと低い声が響き渡る。ドンドン、と未だ上空で繰り広げられている競り合いの音が、やたら浮いて耳に残った。

「……馬鹿だなあ」

シズちゃんが俯いて、元々逆光で影ができていた顔に更に影ができて、表現が全くわからなくなる。
とん、とやたら馴染む漢字4文字が俺の胸に落ち着いた。落ち着くなりじんわりと身体全体に浸透する言葉を反響させていたら、シズちゃんが俺の名を呼んだ。

「なに?」
「………俺、」

ぽつり。ひとつシズちゃんの涙が鮮やかな青みのブレザーに染みをつくる。
それを指で緩やかになぞって再び抱きしめた。もう彼は抵抗せず、なすがままに抱きしめられている。
シズちゃんの心音は穏やかだ。とくん、とくん、と優しく穏やかに鼓動する。

「……臨也を好きでいたら、…人間でいられるかな……」

気付いたらシズちゃんは小さく嗚咽を繰り返していて。数滴にもなった涙が俺の学ランにまで染みをつくった。

「…恋愛感情って、機械には、…最終兵器には、ねえもんな…っ」

目の前で恋人が泣いている。でも俺は何も言えずにただ抱きしめ続けることしか出来ない。
そうだよ、その通りだよ。そんな上辺だけの軽薄な言葉を軽々しく言える程、俺は疎くなかった。

「…俺、臨也を好きな内は、……人間、だよな……っ!」

でも、たとえそうでも。たとえ俺が、嫌に聡くても。ここで何も言わないで、他に何が出来るというんだ。それに、きっとシズちゃんは気付いている。真相にとっくに気付いている。
目の前で好きな人が泣いてる。今は、それだけ。他の要らない情報は、除外。
それにほら。君からはちゃんと心音が届いてる。

「そうだよ」

涙をたっぷり含んだ目尻を指で拭ってやる。大丈夫、大丈夫。何回も繰り返せば、シズちゃんは落ち着いたようで小さく笑った。ほわ、と周りに小さく花が咲く。

「…シズちゃんの笑顔って可愛い」
「…なんだよそれ」
「たんぽぽとか、そういう花似合うかもね。シズちゃん」
「…たんぽぽ…」
「さ、帰ろう。弟くんも心配してるよ」

たんぽぽという単語を口にするやいなや再び瞳に影を落としたシズちゃんに、間髪を容れず帰宅を提案する。
きっと自分が歩く度にたんぽぽを殺しているんだとか、そういう事を考えてるんだろう。シズちゃんは優しいから。自分がたんぽぽを守っても、結局他の敵や味方に一瞬で消されてしまうだろうに、シズちゃんは、優しいから。

「シズちゃん家の今日の晩ご飯は何?」
「さあ…。…あ、昨日のカレーかな」
「へえ、昨日カレーだったの」
「ん、母さんと幽がつくったやつ」
「へえ!ねえねえ、シズちゃん、俺シズちゃんの手料理食べたいな!」
「…は」
「なんでもいいからさ!手作り弁当がいいななんて言わないから!」
「い、嫌だよ馬鹿じゃねえの。信者の奴にでもつくってもらえよ」
「信者の子は信者の子で、シズちゃんはシズちゃん。それで信者の子よりもシズちゃん!よってシズちゃんの手料理のがずっと食べたい!楽しみにしてるね!」
「は、ぁああ!?嫌だつってんだろ!」


俺達は、まるで普通の恋人同士のように帰っていく。シズちゃんのご要望で手を繋いだりはしないが、本当に普通の恋人のように帰っていく。


この頃はまだ、事の重大さに気付いていなかった。


これから先に起きる事。それは、確実に俺の心を蝕んでいく。じわじわと食い散らかして、気付いた時には遅くて。もがいてももがいても、事の顛末は良くならないんだ。

シズちゃんを、…精神的に裏切ったり、傷付けたり。抱きしめたり、泣き合ったり。突き放したり、突き放されたり。







それでも俺達は、縋るように、必死に、恋していく。





















 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
最初は原作通りに進んでいた物があったんですが、やっぱりパロしてる方いるよなあとオリジナル要素詰め込んでみました。
訳がわからなかったら考えずに感じてください(^ω^;)←
しかも見事に原作クラッシャーで、更にはお目汚しすみませんでした;




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