狙う | ナノ







※静雄と津軽、臨也とサイケコンビがそれぞれ同居しています
※臨也と静雄はできあがっています









今日は休日で天気もよく、太陽が優しく雲から顔を覗かせるのは見ていてなんだか心地好い。ついさっき起きた俺は今、津軽がつくってくれていた料理を津軽本人とテーブルを囲みつつ食べている。
津軽は料理がうまい。俺そっくりにつくられたというのに、家事についてはもう100点満点な程様々な事が可能だ。目の前に置かれている優しい黄色の卵焼きは俺好みにアレンジしてあって、ほんのり甘くてとてもおいしい。
因みに俺は料理はからっきしだ。…いや、そういう本を見れば何とかなるだろうが生憎家にそういう本は一冊も置いていない。だから津軽が料理上手だと知った時は素直に喜んだものだ。

「静雄、今日の予定は?」

「んー、今日は一日中家、かな…」

「そうか。じゃあ俺は午後スーパーに行ってきていいか?」

「ん、了解」

津軽はよく買い出しに行ってくれる。前は俺に頼んだりもしてくれたのだが、俺をせっかくの休日に外に繰り出すのはやはり忍びないとか言って最近はめっきり俺の買い出し回数も減った。
まあそれはそれで有り難い。俺の私服を着て行けば例え俺と同じ顔で同じ背格好であろうと誰も気付かないし(やはりグラサンとバーテン服のおかげだろうか)、今ではどうやらスーパーのおばちゃんと顔見知りになったとかで嬉しそうにしていたから。津軽がいいならそれでいい。俺も少し休みたいというのが本音だからな。

「ご馳走様でした」

「ごちそうさま。うまかった」

「別に毎回いわなくて言いのに」

食べ終わった食器を流しに置きに立ち上がる。俺の言葉に津軽は嬉しそうにはにかんで、食器洗いに取り掛かろうとした。これも前は俺もやっていたのだが、やはり最近は津軽が全てやってしまう。
「俺を置いてくれてるんだから、これ位しないとおちつかない」そう言ってきた津軽が俺と同じ顔だとは思えない位優しく微笑んだものだから、うっかりその願いを承諾してしまった事が懐かしい。
片付けが終わりリビングで津軽とくつろいでいると、だんだん陽の暖かさに瞼が重くなってくる。
日なたぼっこは好きだ。それがそのまま津軽にもインプットされているらしく、俺の隣に座りながらうつらうつらと船を漕ぎはじめている。その姿に昼寝するか、と声をかけたその時。
ピンポーン、とインターホンならではの軽快な電子音が部屋中に響いた。

「……お客さん」

「…だな。出てくる」

急な電子音に目も脳内も一気に覚醒してしまう。ちくしょう誰だ。これでピンポンダッシュとかだったらそいつは死ぬ覚悟が出来てるとみた。…まあ、ここはアパートだからそれはないと思うが。
津軽の視線を背に受けながらのそのそと玄関に向かい、ガチャリとドアを開ける。…普通は開ける前にこのドアについてる穴…なんつーんだっけ?…んと、…あ、そうだ、ドアスコープ。そうそれを覗くんだろうが、この俺の体じゃそんなことする必要もない。

「やっほーー!」

ドアを開けた、目の前。ちょっと高めの背をした(そう、言うならばあのノミ蟲ぐらいの高さだ)、女がいた。

「……は?」

ぽかん、とおもわず固まってしまう。第一声が「やっほー」だが、俺の知り合いにこんな女はいなかったはずで、まじまじと見つめてしまう。そこで気付いた。
……こいつ、目が赤い。
目の前の肩まで伸ばされた黒髪を持った女に、瞬時に嫌な予感を感じる。それと同時に、何故気付かなかった、俺。今、物凄い近くであのクソノミ蟲野郎の臭いがするのに、何故今まで気付かなかった!

「シズちゃん、こんにちは。ねえねえ似合う?これ!」

「さようなら」

「えっ、ちょっ 待って!」

そうか、ノミ蟲は女装趣味があったのか。
俺はドアをバタンとそれはもうすごい勢いで閉めたつもりだった。のに、閉まらなかった。どうやらクソノミ蟲が手で押さえているらしい。
くそ、クソノミ蟲死ね。なんか手プルプルしてるし震える位必死なら手ェ離せ。じゃないとイカレるんじゃねえか?あとそのまま手ェ離さないってんなら袖から覗くやたら多いフリルはなんだ。5文字以内に簡潔に述べろ。
頭の中でやたらと早口な言葉を並べていると、ノミ蟲の必死な手の下方からまたもや1つ、手がドアに掛かった。
臨也の手と同じように、白くて華奢な手。臨也のか?と思ったがドアに掛かったその手は俺を除き3本目だ。ノミ蟲が妖怪にでもなったならまだしも、3本腕を生やすとか、人間じゃねえよな。
そこまで考えて、ふとドアが引っ張られるのを感じる。…ノミ蟲の野郎、まだやるってのか?どうせ敵いやしねえってのに本当に無駄な足掻きだな。
今までほんの僅かしか籠めていなかった力を強め、いなくなれ!そう念じたのだが、俺の視界に入っている白い手に、ギリと指先が更に白くなる程力が籠められた瞬間、弾かれるように勢いよくドアが開いた。

「―――!!…はあ!?」

ノミ蟲テメエ筋肉野郎にでもなったか。プロレスラーか?何だ?眉目秀麗のノミ蟲くんはいなくなったのか?
限界まで開けられたドアを呆然と眺めながらどうでもいい事を考える俺を尻目に、ドアノブに掛けていた右手はじんじんと鈍い痛みを訴える。

「やっほーシズちゃん」

「……テメエ、」

悪態をつきつつ目の前のやたらヒラヒラした服を着ている臨也の爽やかな笑みを浮かべたムカつく細身にちょっと安心した。本当に筋肉だらけになったのかと思った。
もう今の俺に"この女がノミ蟲なのか?"という疑問は片隅にも残ってはいない。ノミ蟲臭さと赤い瞳と更にこのムカつく笑みからして、もう確実にノミ蟲しか有り得ないからだ。

「シズくん!久しぶりっ」

ふいに声がして、ノミ蟲を睨む。テメエシズくんてサイケの真似か?キメエんだよ失せ、ろ…。と、そこで、臨也がにやりと口元を歪ませている事に気付いた。
まさか、

「ねえねえ見てー!臨也くんとおそろいっ」

「……サイケ!?」

「サイケかわいいでしょ。本当は俺だけが来るはずだったんだけど、どうしても来たいって言うからさあ」

ノミ蟲の野郎の独り言は無視だ。聞いても時間の無駄にしかならねえからな。
ドアの陰からひょこっと出てきたサイケに内心頷く。サイケか。そうか、さっきの手はサイケの手だったのか。
サイケ、津軽は人間ではなく機械だ。…いや、こういう言い方は悪いと思ってるんだが、実際何て言えばいいのかわからねえんだよな。
2人は機械故に人外の力を引き出す事が出来る。まあ、いつもは制御しているから力が発せられる事とはないが、きっとノミ蟲が何かやったんだろう。こんなくだらねえ事に利用されているサイケが可哀相だ。

「サイケ、何しに来た」

「えーシズちゃんに会いに来たんだよ!」

「んとね、この格好を見せに来たのかな?」

「そうか。じゃあ俺はもう見たな。じゃ。」

「えっ 待ってシズちゃん!まだやりたい事が、」

「やだあ!待って、津軽に会いたいよ、せっかく来たんだもん会わせてえ!」

「…ああ、そうか、そういやそうだな」

「ちょっと俺スルー!?酷くないサイケまで!」

確かにサイケの言う通りだな。津軽もサイケに会いたいだろうし。ノミ蟲にはもう徹底的に無視を決め込み、サイケを家に入れる事にして俺はドアの前からどく。
するとさも当然のようにノミ蟲が入ってきやがった。テメエはお呼びじゃねえよ、と吐き捨てるように言うとにこにこしながらスルーしやがった。死ね。

「おっ邪魔しまーす」

「お邪魔します!」

どうせもう止めてもノミ蟲は出て行かないだろうし、ここで喧嘩になって玄関が半壊も嫌だ。はあ、と小さく溜息をついてドアを閉める。サイケはドアを随分強く開けたらしく、めきっぎしぎしと嫌な音がしたが気にしないふりだ。もし不便になったら臨也に払わせればいい事だし。
鍵をかけつつ、もう靴を脱ぎ廊下を歩いている2人の背を盗み見る(因みに靴も女物みたいだった)。服がそっくりだからだろうか、後ろ姿が瓜二つでうっかりすると間違えてしまいそうだ。






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