トラブルメーカー | ナノ




※しょた臨也
※静雄は現代






何がどうなってこうなった。
俺はたいしてよくもない脳みそをフル回転させ考える。結局、どれだけ頭をひねってもいまいち目の前の異常の原因を見つけられず、更には理解すらしきれなかった。





俺は今日、臨也を殴りに新宿に来た。最初は本当に殴りに行っただけだったのに、なんだか臨也のよく回る口に丸め込まれ、気付いたらプリンを渡され部屋の中に招かれてそのままの流れでソファーに座らされた。
なんだかよくわからないまま、まずは渡されたプリンに手をつけようとぺりり、と軽い音をたて蓋をめくる。あけた所から覗く優しいプリンの色におもわず僅かながら頬が緩んだ。
臨也が後から持ってきたスプーンでまずは一口。言わずもがなうまい。色と同じような優しい甘みが、舌を包んで離さない。脳内をうまいの3文字で埋め尽くしたまま先程から無言の臨也をチラ見。…なんかこっちを幸せそうに見てやがる。視線に気付くと何故か急に恥ずかしくなって、おいしいけれど早く食べ終えてしまおうと思った。
プリンを食べ終えた後はそのままだらだらしたりつまらない事を話したりして、気付いたらもう殴りにきてから2時間たっていた。
俺は明日も仕事だから、あまり長居はできない。それにこの場には臨也の助手と名乗った女がいる。その女がいることもあり、これ以上長居は流石に気まずかった。
運よくとでも言おうか、家に帰るタイミングを見つけ素早く立ち上がる。すると臨也の2つの赤と目が合った。「帰るの?」口は開かず無言のままだが、瞳で訴えて来やがった。俺が反射的に体を強張らせても赤い瞳は動かず見つめて来るまま。
最終的に折れた俺に臨也は満足そうに微笑んで助手の女を帰らせた。こいつはやっぱりわかってやがった、と心中で毒を吐く。
そして再びだらだらしていて、いきなり。隣でソファーに座っていた臨也が、煙りをたてた。……いや、たてたというより、煙りが臨也を覆ったというべきか。
…ともかく、俺の視界は真っ白で覆われ、何も見えなくなった。驚きを隠せないまま臨也の名を呼び煙りの中に手を突っ込む。
どっかのドラマみたいにいきなり消えてしまうような予感が脳裏を過ぎったその時、手が何かに触れた。未だに消えずに漂っている白煙は相変わらず俺の視界を邪魔するが、そんなこと気にしていられずに手に触れた感触を思い切り掴んだ。

「いたっ」

瞬間、聞こえた声。思わず手の力を弱める。煙りの中から聞こえた声。てっきり人がいるなら臨也かと思ったが、中から聞こえた声は成人した男性とは思えぬほど高かった。
だんだん視界が開いて行き、目がとらえたのは、…まず、黒髪。そして、赤い瞳。なんだ、やっぱり臨也か。そう安堵したのもつかの間、驚きで目を見開いてしまった。

「……?……お兄さん、だれですか…?」

黒髪に赤い瞳。それに整った顔立ち。それだけで臨也とわかったが、それを含んでいても目の前の奴は臨也じゃないとわかった。
矛盾してる?んなこと知ってる。
だって、目の前の奴は、すげえ小さいガキだったんだ。
そして、話は冒頭に戻る。






目が回るほどぐるぐるしていろんな単語がごちゃごちゃと連なっている脳内を一度落ち着かせ、何度目かわからない視線を目の前の子供に向ける。目の前の子供は見た目の年のわりには大人しく、事態の飲み込みが早いようだった。
最初に問い掛けられた"誰"という言葉に、どもりつつも本名を口に出すと子供は興味なさそうに頷いて、体育座りのまま動かなくなってしまった。赤い瞳もずっと俺を映して動く様子がないから居心地が悪い。例えばそれが好奇や好意であればまだよかったのだが、どう考えても疑念、警戒の類だった。

「…なあ」

このまま黙りこくっていても仕方がない。警戒心丸出しの子供に出来る限り優しく声をかける。俺の声が届いたのか、小首を傾げる子供。

「お前、名前は?」

俺が空気を和ませようと、この気まずい空気から逃れようと口に出したこの問い。別にこれに深い意味はない。本当に、この場凌ぎのためだけだった。でも、子供は俺の質問に何を思ったのか膝を抱く腕に力を込めた。小さい体が故意に更に小さく畳まれる。そして子供は、小さい顔についている小さい口を開いた。

「…なんえん、ままにもらうの」

「…………は?」

「なんえん、ぱぱからうばうの」

予想外すぎる返答に、情けない事に動けなくなってしまった。もらうって何をだ?……うばうって、

「どうせお兄さんも、ぼくをさらってみのしろきんをもらうんでしょう」

そう言い放った子供の目は怯えからか涙の膜がはりついて揺れていて、震える自身の体を抱き寄せながら俺を見据えていた。身代金、その言葉で話が繋がる。ああ、俺は誘拐に勘違いされてんのか。
ぽかんとしたままの俺を訝しく思ったのか、子供は僅かに腕の力を強めた様子だった。

「……金なんていらねえよ」

「………え」

いや、まあ本音は欲しいが、それは一般的な欲望であって、別にこの手を汚してまで貰おうとは思わない。

「俺は誘拐じゃねえ。ガキさらって金もらうんなら自分で働く。」

ゆらゆらと揺れている赤い瞳からとうとう涙が溢れた。ぽろぽろとこぼれる涙は透明で、子供の膝を覆っているズボンを濡らしていく。それでも子供は俺を見たままで何かを言いたいようだったから俺は黙って見つめる。

「……ほんと?」

ままにでんわとかしてない?これからも、しない?
言葉を紡ぎはじめたら涙の量が増えて。今まで比較的無表情だったものがくしゃりと歪んだ。
俺は涙を拭おうと部屋を見回したがちょうどいいものはなくて、子供に少し悪い気もするがティッシュを数枚箱から抜き取った。
そんなことするかよ、と返事をしつつティッシュで涙を拭う。力を込めないよう大いに気を遣う作業はあまり慣れてないからかやけに疲れを感じた。
こしこし、と目元を拭い続けると子供の表情が少し緩んだ。どうやら信用してくれたらしい。

「お兄さん、ちから、つよい」

ふふ、と笑いながら俺の手に添わされた手は小さくて白くて。俺はこんなガキを泣かせたのかと決して少しではない罪悪感に駆られた。
力が強いと指摘されたので慌てて手を引く。それと同時に拭った場所が擦れて赤くなっていないか確認。よかった、どうやらそこまでではなかったらしい。

「お兄さん、おれね、おりはらいざやっていうんだ」

「………へ」

さらりと言われた言葉に思わず目が丸くなるのを感じた。子供は別に俺が名乗ったのだから自分も言わなきゃ程度に思ったのだろう。頭上にはてなマークを浮かべて、驚いている俺を見た。でも今の俺にはそんな子供の様子を気にかけられるような暇はない。先程のように再び頭がぐるぐるしはじめた。
―――今、こいつなんて言った?……折原臨也って言ったか?でも、こいつガキだろ。俺の知ってる臨也はこんな純粋な目してなくて、もっとむかつくような目してて、んで更には成人してたはずだ。
思考をぐるぐる回して結果が出るやら原因がわかるやらすればよかったのだがそんなことは全くなくて。ぐるぐるな頭に葛をいれたくてもいれられない。
そんな頭を一旦置いておいて子供に尋ねる。お前は何歳だ、と。

「えっと、よんさいだよ」

「……本当に臨也っていうのか?」

「?うん。ほんみょうだよ」

どうやら本名かと疑っているととられたらしい。かわったなまえだけどほんみょうだよ、と舌ったらずで告げる子供に少し目眩。
――もし目の前の子供が本当に臨也だったら。
――どっかの漫画みたいに過去の自分と入れ代わったとかだったら。
そこまで考えて、ふと気付く。じゃあ臨也はどこにいったんだ?

「なあ。……お前、どっから来たんだ?」

脳内に浮上した何個もの疑問の中からひとつ。目の前の子供に尋ねる。

「……さっきまでは、おうちにいた」

「………そうか」

質問を聞いた途端陰った表情に俺は少なからず焦り、やっぱりこいつもよくわかってねえんだよな、と再確認。
もし過去の自分と入れ代われるなんてのを前提にするなら、こいつは今まで家族と一緒にいて、談笑なりしていたところでいきなり白煙に包まれて知らない男の目の前にいて。
……それに、あの怯え方。すくなくとも一回は誘拐にあったんだろう。こんな小さい無力の子供を誘拐だなんて反吐がでる。
…例え目の前のこいつが本当に臨也だとしても、まだこいつは今のあいつじゃねえ。今のあいつなら喜んで誘拐にでもなんにでも受け渡せるが(まあどうせ誘拐にあっても返り討ちだろうし)、こいつはまだ4歳だ。仕草や表情はどうみてもあの憎たらしさを滲ませるあれではない。
……はあ。じゃああいつは今頃こいつん家にいんのかな。
ぼうっとそんなことを考えてから目の前の黒髪を少々乱暴になでる。さらさらだ。

「お兄さん、なまえもういっかいきいていい?」

撫でられるのが好きなのか、心地良さそうに笑みを零す自称臨也。さらさらな黒髪を掻き回しながら再び名乗ると、少し考えたようにぶつぶつ呟いて、ぱあっと顔を輝かせた。

「じゃあ、"しずお"から"しず"をとってしずちゃんだね!」

嬉しそうに、楽しそうに笑う4歳児に、再び目眩。
―――こいつは、本当にあの臨也かもしれない。
そう俺ならではの本能が感知した瞬間だった。








―――――

あれっ
もっとギャグチックにする予定だったのに(´・ゝ・)
なんだか期待を裏切るような文ですみません´`
そして誘拐とか物騒ですみません。
ちなみに続きます´ρ`


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