帰り道 | ナノ




※来神



薄暗い帰り道。学校の帰りで、のんびりと暗くなってきた空の下を歩いていた。数歩前には、やたら背の高い金髪……シズちゃんが歩いている。
星が瞬き始めてきたのを眺めてから、前の歩くリズムによって揺れている金髪に視線を移す。今日は朝天気予報士が言っていた通り寒空だ。手がかじかんで、指先がほんのり赤く色付いていた。
はあ、と息を吐くとうっすらとした空の紺色に白い息が映えて綺麗だ。数回息をして、満足するなりマフラーに鼻から下をうずめる。忙しい中妹達2人に引っ張り回され、服を買うのに1時間も付き合わされた後、労働賞だ、とか言ってあいつらが押し付けたこのマフラー。最初は巻くのを嫌がったけれど(だって恥ずかしいじゃないか。……うん。)今となってはお気に入りになっていたりする。だって何だかんだいって俺の好みに合っていたし、肌触りも長さも俺好みだったんだ。これで気に入らないとか、俺そこまで捻くれてるつもりないし。
そんなマフラーからそのまま前に視線をずらすと、相変わらずの距離の先にいる、金髪。暗闇にまじってすぐにでも消えてしまいそうだ。
ああ、もう…俺達、一応付き合ってるんだよね?
シズちゃんに念を送ってみる。――全く反応なし。…まあ、当たり前だよね。
確かに告白したのは俺だ。でも君はそれに応えてくれたよね?告白した数日後、顔真っ赤にしながらしかめっつらのまま言ってくれたよね。――ああ、あれからもう数ヶ月。手も繋いできたしキスもした。シズちゃんが人目のつくところで仲良くしたくないってのももちろん知ってる。……でも、やっぱり何だか疑いたくなってしまう。

(……シズちゃんのケチ)

意味もない文句を心の中で並べる。ばーかばーか。シズちゃんのばーか。

「ばーか」

あ、口に出してしまった。
小さい声だったけれど、今俺達がいるのは住宅街に向かうための細めで家がまばらにしかない道だ。暗さに磨きがかかり濃紺になってきた空の下、遠くからの僅かな電車の音しか聞こえないここではたった一言でも大きく響いてしまった。

「……なんだよ」

振り向いたシズちゃんはしかめっつらで。うん、仕方ないよね。歩いていたらいきなり後ろから「ばーか」って、さすがにシズちゃんじゃなくても嫌な気になる。
でも、違うよ。俺が本当にシズちゃんにかけたい言葉は、こんなんじゃない。

「何でもない。ごめんね」

「………そうか」

そういって前に向き直ってしまうシズちゃんに、少なからず寂しさを感じてしまう。……あーあ、俺どこの乙女だし。……あーあ、なんで、シズちゃんは。…どうして、俺は。

「……シズちゃん、なんでそんなに離れて歩くの?」

出来心で聞いてみる。ああ、俺って面倒臭い奴。

「…特に意味はねえ」

「……ふーん」

沈黙。…特に意味はないって、何それ。それって俺とこうして一緒に帰ってる事も、特に意味はないのかなあ。……はあ。シズちゃんが男前で鈍感なのは知ってたけど…、……うん。やっぱり俺どこの乙女だよ。
さっきとは違って振り向かなかったシズちゃんは相変わらず歩き続けてる。あ、あと少しで道が分かれる。そこまでかあ。相変わらず帰り道での進展はなし。まあ、もう慣れたけどね。
ふと足元にあった視線を上げてみたら、シズちゃんと目があった。あれ。何でシズちゃんこっちに向かってくるんだ?

「………ん」

俺の目の前に差し出された、手。白くて、大きめで、でもごつごつとはしていない、シズちゃんの手。

「え、」

思わずシズちゃんを見ると琥珀色と目があった。…うん、今日も相変わらずシズちゃんはイケメンです。
目が合ったと思ったら請う様に見られ、反射的に今まで体のよこにぶら下がっていた腕を動かす。
え、何、これであってるの?
俺は恐る恐る手を重ねた。あ、シズちゃんの手冷たい。
重ねたら、シズちゃんは弱々しく握ってきた。弱すぎてくすぐったくなるくらい、優しく。あまりの優しさに、だんだん2人の体温が溶け合って温度差を感じなくなるまで俺は動く事ができなかった。
はあ、と控えめな息を吐く音がきこえて、我に返った俺はこっそりと顔を覗きみた。
……あ、真っ赤だ。シズちゃんの顔、りんごみたいに真っ赤。寒さによる赤みではない、もっと違う赤み。思わず小さく笑ってしまった。こんなので顔真っ赤とか可愛い。ほんと可愛い。
でも、シズちゃんには内緒だけど、こんなのに心底喜んで満足してる俺もいたり。
シズちゃんにつられて頬が赤くならないよう、気を紛らわしながらシズちゃんの隣に並んでみる。

「寒いね」

「そうだな」

「……シズちゃん」

「なんだよ」

「……恋人繋ぎしていい?」

「………勝手にしろよ」

まわりの星がだんだんと強い光を主張し始め、同じ様に深くなる闇。あと少しで家だけれど、こんなに寒いんだから早く家に入りたいけれど。
俺にしては珍しく、このまま時が止まればいいのに、なんてベタなことを思った。


寒い帰り道


「もう分かれ道だね」
「そうだな」
「…寄り道、する?」
「……そうだな」






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