・ハッピーハローウィンな話 「シズちゃん!」 「トリックオアトリート!」 今まで右にトムさん後ろにヴァローナがいて快適だった視界の端から、ちょっと一人になった途端黒い塊が脱兎のごとく俺の視界に入ってきて、何かと思ったら、臨也だった。 「ってシズちゃん飴舐めてるし!棒付きとか!えろかわいい!」 「ハイテンションだな」 臨也の声と共に俺の視界でアリみてえな黒いのがピョンピョン跳ねてると思ったら臨也だった。実際跳ねてる訳じゃないが、うん、よくある事だよな。だってこいつ黒いし。 「シズちゃーん、お菓子は?ないなら悪戯しちゃいますけど」 こんな大通りでね!とドヤ顔で言われても、ここは既に大通りから外れた細ーい道。こいつにとってはこの道も大通りなんだなと、いつの間にか寛大に成長した俺は涙ながらに同情しつつ、臨也を一瞥。 「悪いけど、今人からもらったのしかねえんだわ」 「…へえ?」 「竜ヶ峰に園原にセルティに新羅。その他にもちょいちょいとな。おかげでポケットに入りきらなくてよー」 何気なく右手に提げていたビニール袋を臨也の視界に映るように持ち上げる。中には色々な種類の飴やらチョコやらが詰まっていて、何も用意していなかった俺は正直の所申し訳なく感じていたり。 「だから、悪いけど、今は無理だ。菓子はあるけど」 ニヤ、と笑えば悔しそうに下唇を噛む臨也と目が合った。大方、大抵の人間には会ったが何ももらえなかったという所なんだろうな。 「だから、まあ、悪戯したかったらどうぞ」 段々と口に突っ込んだ飴が溶けて薄く小さくなっていく。ぼっちな臨也くんは悔しそうに俺を睨んだまま、動きそうになかった。 喜んで悪戯するかと思っていたが、意外だった。そんなに悔しいのか。なんだかちょっとだけ罪悪感に苛まれた。気のせいだったけど。 「なら、その飴ちょうだい」 ぷーんとそっぽを向いた黒い塊は当たり前のように俺に手を差し出してきた。 なんだ、他の奴のでもいいのか。 ガサガサと袋を漁るフリをして、やっぱりやめたと手を止める。 貰った物をあげるなんてそんな事出来る訳がなかった。俺だって、臨也程じゃないと自負してはいるが、いい感じにぼっちな時期があったんだ。だからかそこら辺は地味に貪欲だったりする。でも大抵、その貪欲すら忘れてしまいがちだけれど。 「馬鹿か、人から貰ったもんやれる訳ねえだろ」 「ん?あー、違う違う」 「違う?」 「今舐めてる飴、下さいって事」 ガリッ。 俺の口の中で飴が粉々に砕けた。薄く小さく、限界まで地道に溶かしていこうと思った飴も、俺の歯で簡単に潰されてしまった。 「…ちょっと、今、ガリッて音したけど…」 「…仕方ねえな、…臨也くんは俺の唾液付きの棒でも貰ってくれるんだろ」 自分で唾液とか言っておいて気持ち悪くなった。例えこいつでも唾液付きとか貰わねえだろ、と自分に突っ込みつつ、口から飴のなくなった棒を取り出す。 そして、目の前の臨也といえば。 「…シズちゃんの唾液付…き…。…いや、でも…。……いや…価値はありすぎる、よな…」 真顔で悩んでいました。 飴さん下さい (シズちゃんは将来俺の家族になるんだから、使用済なものや唾液の類は貰い放題になると思うんだよね) (…気持ち悪いと罵るべきなのか頑張って照れるべきなのか…) ____ ハローウィンな話でした。 シズちゃんはモテモテだと思います。でもそれ以上に臨也もモテモテなんではないかとも思います。その癖にこの話ではぼっちになって貰いました^^ でも何だかんだ言って最終的にはクルマイが兄貴へぎゅぎゅっとしに行く(≒たかりに行く)と信じています。 |