「知ってる?甘楽姉」 「ん?何をですか?」 「臨兄に、好きな人がいるんだよ!」 始めまして、私は折原甘楽、悲しくも独身な25歳です。あっ、でも結婚したら臨也くんと離れなくちゃいけないから、独身のままでいいかもです。っと、早速脱線するところでした。 只今、私は池袋の街に出ています。臨也くんに寄り添って、人の波に押され流されないように都会の空気を嗜んでいる最中です。昨日臨也くんと再会して、何故こんなに漫画の急展開のように街に足を運んでいるかというとですね、それは今朝まで遡ります。 今朝の6時、月曜日だというのに元気よくアポなしで訪問してきた双子の妹。元気バクハツな舞流ちゃんに、おっとり上品な九瑠璃ちゃん。九瑠璃ちゃんったら随分胸が大きくなっちゃって、小山程度の私にはとても羨ましく感じたのは秘密です。舞流ちゃんはこの小山を褒めてくれましたけどね。 臨也くんは自室で寝ていて、私が2人のお相手をすることになりました。そしてなんの前触れもなく聞かされた臨也くんの好きな人。びっくりしました。臨也くんは綺麗な顔をしてるから、女の人弄んだりしてるのかなとか、ファンとかいるのかもしれないとか思っていましたけど、まさか好きな人ができていたなんて。 臨也くんの好きな人。どんな人だか全く予想がつきません。それに、2人の話だとまだ臨也くんの片想い中なんだとか。私の大切な臨也くん。この歳だし、もしかしたら結婚まで考えているかもしれない。ああ私の大好きな臨也くん!これは直々に会って確かめなければ! ―――という私の燃えに燃えた心により、急ピッチで池袋を訪れた訳です。 脳内で九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんの言葉が反響しています。臨也くんが片想いだなんて、切ないし悲しいけれど、私は姉ですから。嬉しいという気持ちもない訳ではないんです。 『平和島静雄っていう人でね』 『…常……(いつも池袋にいるの)』 『行けばすぐにわかるよ!今度臨兄に街案内でもしてもらえば会えるんじゃないかなあ?』 『…肯…(うん、きっと)』 九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんが私の為に教えてくれた臨也くんの秘密。これは、今横にいる臨也くんの為にも、想い人をこの目で、裸眼で、焼き付ける位眺めないとですよ! それにしてもヘイワジマシズオって、随分男の人っぽいお名前で。それにヘイワって平和で、シズが静っていう変換だったら、すごい名前ですよねぇ。こういう名前の人って大抵名前負けしてるイメージあるんですが、この方はどうなんでしょう。 「ねえ甘楽」 「はい」 すこし人通りの多い道に出て、左右を見る事に忙しくなっている最中始まった会話。何も変わった事もなく、何の前触れもなく、だから当たり前のように返事をしたのに。 「今更かもしれないけど…、…平和島静雄って、知ってる?」 「………え、」 「あ、知ってる?やっぱり」 「え、いや、…し、知らないです!名前くらいしか、」 折原甘楽、この歳で口から心臓が飛び出そうになりました。 臨也くんはあれでしょうか、その方を私に紹介しようとしてるんでしょうか。今更って事は、やっぱりって事は、私が九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんに教えてもらったという事がバレたって事でしょうか。 あの2人はどうやら臨也くんをからかうのが好きだそうだから、……ああでも、臨也くんの事だからすぐバレてもおかしくない、ですかね。 「じゃあ、教えておこう。…まず第一に、平和島静雄って人に会いそうになったら、死ぬ気で逃げて」 「……へ?」 ――…あれ? → |