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「好きです」


何処か深刻な顔で悩んでいた生徒の相談に乗った、夕暮れ時。
その生徒はお世辞にも真面目と見える外装をしていなくて――まあ所謂不良の類に入るのだが――そんなに神妙に顔に影をつくって悩むというのが似合わないと思ったのが事実で。
俺は教師。そしてこの生徒の担任を持っている訳だから、これは相談に乗るべきではないか、と俺にしては真っ当な純粋な気持ちで声をかけたのが、15分程前。
どんなに優しく笑いかけても生徒の眉間は緩まなくて、しかも口すら開いてくれなくて困っていたら、目の前の俯いていた瞳に涙が浮かんでいた。凄く驚いたよ。この金髪長身が、教室の自席で四肢を投げ出して座っているような長身の男子生徒が、泣き始めたんだから。

でも、俺は今それ以上に混乱している。


「……え?」

「っ、」


俺の無意識に零れた言葉の断片に生徒の肩が跳ねた。ぽたぽたと机に落ちる雫の数が増えて、机に乗せられていた生徒の握りこぶしは微かに震えていた。


「……す、みま…っ」


――忘れてください。
震える声で精一杯紡がれたその言葉には、どれくらいの思いが篭っていたんだろうか。


「………平和島、くん」

「……は、い」

「………今日は、授業中君寝なかったね」

「そ、う…でしたっけ…」

「…うん、ずっと、難しい顔してた」


気まずい筈なのに、口は止まらなかった。しかし、だからといって視線が交わる事はない。
ぐす、と平和島くんの鼻がなって、それに俺まで酷く泣きたくなった。





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