みつをさまから5千打 | ナノ





いつもより5分遅い起床、いつもより3回多く溜め息を吐き、いつもより1キロぐらいずつ重い足を引きずるようにして家を出た。
出来ることなら行きたくない。しかし週明けを思うと恐ろしくて休もうとは思えなかった。

今日より3日間、来神学園の3年生は修学旅行で京都に行く。

引率役を除いた教師と残った生徒は束の間の安息を手に入れ、俺たち京都組は小さな期待を胸に大きな危険の中へと足を踏み出そうとしている。
たかが修学旅行、されど修学旅行。我らが同級生二人によって、百パーセント普通の旅行は送れないだろう。
ああ、大変だ。
「…胃薬忘れた」
楽しい修学旅行の幕開けです。




ジリジリと容赦なく照り付ける日射し、空は雲一つない快晴。暑いが風があるぶんまだマシだった。
「あー暑い。こんな時季に京都とか…どうせなら秋とかがよかった」
新羅は買ったばかりのお茶を飲みながら、服の隙間に手でパタパタと風を送っている。色白の肌には既に赤みが差していて痛々しい。
「今更文句言っても仕方ないだろ。大体、こうなること分かりきって来たんじゃないのか」
「まあね。それにしてもあの二人暑くないのかな?」
そう溢した新羅の視線の先には、炎天下の中で口論するクラスメイト二名。ちなみに、俺と新羅は出店の軒下へ早早に避難していた。
「おい!どうすんだよコレ!」
「仕方ないじゃん!臨時休業とか、俺にだって予想つかないよ!」
事前に調べたのか、臨也が有名らしい京料理の食べられる店に行こうと言い出した。しかし、何度も迷いながら漸く辿り着いた店の扉には臨時休業の貼り紙。
それに暑さでイライラしていた静雄がキレて喧嘩になった。お互い暴れないのは単に暑いからだろう。
「ねえ門田くん、打ち水してるよ」
俺達のいる斜め向かいで年配の女性が路面に水を蒔いていた。水が反射してキラキラと舞う光景は視覚的にも涼しげだ。
「お前が美味い店見付けてくるっつうから楽しみにしてたのに!」
「俺だってシズちゃんと食べたかった!」
なんだか方向性が怪しくなっていく声を聞きながら、いい加減時間も勿体なかったので打ち水の女性に道を尋ね、通りでタクシーを拾うと騒ぐ二人を押し込んだ。
新羅には申し訳ないが二人の間に座ってもらう。あとでメシでも奢ってやろう。




次の目的であった清水寺。その近くに美味しいと評判の店があるらしく、時間もないのでタクシーで近くまで来るとそこで食事を済ませた。
地元の方が言うだけあって、非の打ち所のない味に静雄も臨也も満足そうだった。こっそり安堵の溜め息を吐くと新羅に「お互い損な役回りだよね」と笑われる。
確かに他のグループが六人に対し、俺達だけが四人だった。そしてそれが最初から決まっていたことなのだから、新羅の言うことも尤もだと思う。
「学校も文化財壊されたりしたら堪らないだろうからな」
「ちょっと心配し過ぎじゃ――…」
まるで謀ったかのようにガラスの割れる音が重なる。
「「…………」」
言葉など必要なかった。
俺達は第二波が聞こえてくる前に走り出していた。そして全力で叫ぶ。
「「頼むから…ここでは暴れないで(くれ)!!!」」




修学旅行で京都に訪れているのはなにも来神学園の生徒だけではない。他県の生徒に混じりながら騒ぐ二人を、少し離れた場所で見守る。
「なんだかんだで仲いいよね、あの二人」
ベストポジションとはいかないが、それでも十分素晴らしいと思える景色をカメラに収めつつ新羅が言う。
「喧嘩さえしてくれなきゃ、中々楽しいメンバーなんだがな」
「あ、僕も同じこと考えてた」
風が吹くとさわさわと草木が揺れる。ここは時間の流れがひどくゆっくりに感じられた。
(静かだ………ん)
「門田くん?」
おかしい。これは――…
「静か、過ぎる?」
「え?…って、あれ?静雄と臨也どこ行ったの!?」
さっきまで二人がいた場所に本人たちの姿はなく、それどころか他校の生徒もほとんどいない。
どうやら少し目を離した隙に二人だけで先に行ってしまったようだ。
「はあぁ、勘弁してくれ」
「大丈夫だよ!電話すればすぐ合流出来るだろうし」
そう言うなり新羅が携帯を取り出す。そこで俺が臨也に、新羅が静雄に掛けてみたのだがどちらも繋がらなかった。正確には呼び出し音すら聞こえない。
「おい、あいつらちゃんと携帯持ってんのか」
「静雄に至っては否定しきれないけど、あの臨也が持ってないとは思えないなあ。取り敢えず、敷地内を探してみようか」
「…ああ、仕方ない」
キリリと傷んだ胃に、薬局に寄ってからホテルに戻ろうと思った。




当初、1時間の滞在予定が既に倍の2時間になろうとしている。未だ二人とは合流出来ていない。
敷地内を探しながら、幾度となく電話もしてみたが一向に繋がる気配はなかった。
「この分だと、予定してた観光スポット削んないと時間内に戻れないね」
残念がる新羅に、逸そ二人を置いて先に行くかと言いかけ、そんなことをしては後が恐いと思い止まる。
結局、更に1時間探したが敷地内のどこにも二人の姿は見当たらなかった。
(あいつらなら相当目立つだろ。なんで見付からないんだ)
そこまで考えて、ふと嫌な予感がした。
(いや、いくらなんでもそれは…)
脳内に過った考えを払拭するかのように頭を振る。
唐突に、今まで沈黙していた携帯がポケットの中で震え出す。
発信者は臨也だった。
『もしもし、ドタチン?今どこにいんの?』
「それはこっちのセリフだ。何度も電話したんだぞ」
『あはは、ごめーん。電話しようとしたんだけど、シズちゃんとアプリのやり過ぎで電池なくなっちゃってて。シズちゃんはシズちゃんで携帯ホテル忘れて来ちゃってるし、コンビニで充電器買って漸く…』
「ちょっと待て」
『ん?どしたのドタチン』
「コンビニって…まさかお前ら外にいるんじゃないだろうな」
充電器買いに行っただけだよな。また戻って来てるよな、こいつら。
『え、外だけど?』
――ちょっと何言ってんだこいつ。
『だって20分も探したのに二人とも見付からないんだもん』
――俺ら3時間探してたんだけど。
『今から合流しても時間勿体ないからホテルでね。じゃ!』

ブツッ、ツーツー…

直接会話をしていなくとも伝わったらしく新羅は何も言わなかった。




京都の夕空を、先程見れなかったベストポジションで新羅と二人眺める。
「なあ、この後薬局寄っていいか?」
「市販の胃薬なら×××のところがオススメだよ」
「そうか」
明日もグループ別の自由行動になっている。今日の出来事を考えると、明日も期待出来るとは到底思えなかった。
そう言えば、ここを舞台に有名なセリフがあったな。
「清水の舞台から飛び降りる」
「それって思い切って何かをするとかって意味だよね。うーん、僕も思い切ってみようかな」
何を、とは訊かなかった。何となく分かったから。
「じゃあ俺も飛び降りてみるかな」



翌日、静雄と臨也は原因不明の腹痛に見舞われ1日中寝込む羽目となる。
更に臨也の携帯が紛失し、数時間後ロビー横にある水槽に水没しているところを発見されたのはまた別の話。




一蓮托生





――――――
『Chloe』のみつをさまよりフリリク企画にて頂きました!
何のCPでもいい、という事でしたので、門新を混ぜたリクエストをさせて頂きましたが…。もう、ほんっとにやにやしました。来神って、高校生って本当青春ですねー!

臨静の何だかんだ仲良しな所や、門新の苦労人コンビだとか、素敵でした。臨静が喧嘩しちゃう所や、臨也が携帯の電池を切らした所だとか、にやにやしたり笑ったりしました(*´▽`)
そして、ドタチンの胃痛とか、可哀相ですが、そんなドタチンも大好きです^^

…相変わらずボキャブラリー貧しすぎて申し訳ないです…。

みつをさま、素敵なお話本当にありがとうございました!!
これからも応援しています…!


(11/08/13)

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