消える影と居残り坊主 | ナノ



※何だかんだ仲良し来神組
※CP要素薄め
※相変わらず捏造だらけ









「梅雨だね」

「だな」

「入梅、ねえ」

「にゅうばい」

「梅雨入りのこと」

新羅と臨也が笑う。俺はそんな2人の間で、雨の止まない薄暗い街路をガラス張り越しに眺めていた。
俺が少し力を込めたら破れそうなガラスは、しっかり俺達を外気に触れないよう遮断している。力を込めないよう手を添えれば、俺の手が熱いのか白く曇った反転した手形ができた。
それを見たのか、臨也も俺の手の横にその白い手を添える。新羅は何やってんのとまた笑った。

「意外とバレないんだね、」

「そりゃあ、俺達といえば真っ黒なファー付きジャケットに白黒のバーテン服だからさ」

「静雄なんて髪結んじゃってるし」

「俺は眼鏡してるし?」

臨也は俺の視界の隅で眼鏡をかけ直した。くいっと上げる動作はどうせ顔に相まって様になっているんだろう。こいつは、顔だけはいいから。

「…雨、やまないね」

「いいの?新羅、最愛の運び屋家にいるんだろう」

「今日はいいのさ、彼女からも行ってこいって言われたし」

「ふーん?」

「それにしても…門田君遅いねえ」

新羅が、珍しい私服の袖をめくり時間を確認する。新羅の腕につけられた腕時計は、それなりに値がはりそうだ、とそういう事に素人な俺でも思ってしまう位、シンプルで綺麗に統一感があった。
新羅は、今日はいつもセルティとのコントラストがとか言っている白衣ではなく、私服だった。いや、そうする様に連絡したのは俺なんだが。
今日は、もう懐かしい高校生の時の4人で集まろうという臨也の言葉で、俺達は集まった。
待ち合わせは某ファーストフード店のガラス張りに向き合うカウンター席。日時は、6月4日の正午過ぎ。さらに服装の指定があり、何時もとは違う私服、という事だった。
おかげで、心機一転、黒ではなく有彩色の服を着て眼鏡を付けた臨也と、幽が選んでくれた服を着てサングラスを外し髪を適当に結った俺がいくら並んで池袋を歩いても、ほとんど気付かれなかった。そりゃあ、たまに振り向いた奴はいたが、それを含めてもほとんどが気付かなかった、と思う。

「ドタチンは人気者だからねー」

「成る程、服を変えてもばれてしまうって事だね」

「そうそう…って、噂をすれば。あれ、そうじゃない?」

臨也の指差した方を新羅が覗き込む。俺も見れば、そこにはちょっと印象の変わった門田が傘をさしていた。雨が降る中少し小走りで、泥が跳ねないかとこちらが心配になる。
門田が傘を畳み店に付いている傘立てに突っ込み、自動ドアを潜った。レジを素通りして、向かうのはこっち。門田と目が合えば、臨也が声を上げる。ドタチン久しぶり、それに次いで新羅から門田君こっちこっち、と声がかかるなり門田は何故か立ち止まってしまった。ぴったり足が止まっていて、こちらを見ている目がぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「…びっくりした」

漸く門田が動いた。門田から零れた何気ない一言に俺も臨也も新羅も笑ってしまった。実際、俺達もそれぞれ会った時はびっくりしたんだ。それなりに予想はしていたが、あまりにもそれぞれいつもと服装が違うから。

「お前等、そんな服着るんだな…」

そう言う門田もいつもとは違う系統の服を着ていた。何だかやはり新鮮で、思わずまじまじと見てしまう。途中で失礼かななんて思ったが、門田も俺の事じろじろ見てきたしいいかななんてのも思った。
門田が臨也の隣に座る。この中でも一番門田が驚いたのは臨也のようだ。まあ、そうだよな。日頃黒一色のアリみてえな奴が、いきなりこんな明るい服を着て、色縁の眼鏡をかけたらびっくりもするだろう。

「遅れて悪かったな」

「15分の遅れだよー。私はいいけどね」

「ドタチンの遅刻魔ー!ま、俺もいいけどね」

「はは、ありがとな。静雄も、待っただろ?すまないな」

「俺は平気だ。待ってる間一人じゃねえし、気にしねえ」

「そっか。ありがとな」

新羅が笑って、臨也も笑う。それにつられて門田も笑った。不意に、この連鎖好きだな、と心の隅っこが暖かくなった。

「で、臨也、今日は何で集まったの?」

「んー?ただ何と無く、じゃ怒る?」

「あはは、怒るかもよ?なーんて」

「ごめんごめん。そうだなあ…いや、たださあ」

「ああ」

「うん」

「…何て言うんだろうね、…えっとね」

「何、まだ決めてないの?それとも良からぬ事だったり?」

新羅が笑った。門田も笑う。当たり前のように、臨也が笑う。でも、それは先程の連鎖とは違う色をしているように見えた。
傍から見たらただの笑顔かもしれない。でも、不本意ながら臨也に関して敏感になってしまった俺には、臨也は苦笑いしたように見えた。

「さっさと言え、ノミ蟲」

「あ、ひっどーい。はいはい、言いますよー」

「うんうん」

「……、…やっぱり何と無く!…なんちゃって」

「えーっ? もう、せっかく引っ張ったのに結局それ?」

「あはは、ごっめーん。俺暇人だから」

「暇人というよりもお一人様でしょ」

「何それ、オブラートに包んだつもり?変な日本語」

「はは、僕も思った」

結局濁された。俺は瞬時にそう思った。
きっと、それは新羅も気付いている。きっと、聞き手に回った門田も気付いている。
でも、珍しく渋っている臨也から得体の知れない何かを引きずり出すなんて事は、容易に出来る事ではなかった。
まあ、本当に言いたい事なら話の筋をへし折ってでも話してくるだろう。何て言ったって相手はあの臨也だ。

門田がレジに飲み物を買いにいった。俺も行くと言ったが、遅れた詫びに奢らせてくれと困ったように笑われたから、下手な言葉は喉元に押し込んで頷いた。
何がいい、と言った門田に、俺も新羅も臨也も飲み物しか伝えなかった。因みに臨也に新羅はもう既に一杯飲み終わっていたが、それでも、2人は頑なに飲み物しかいらないと首を横に振っていた。
頼んだのは、新羅がミルクティーに臨也がファンタ、俺がコーラ。炭酸という括りで俺と臨也が被った事に少し抵抗感を持ったが、頼んでしまったのは仕方がない。

少したったら、門田が戻ってきた。
こちらが礼を言うなりそれぞれの前に置かれた飲み物は氷で冷えていて、梅雨の今には少し肌寒く感じた。

「シズちゃんコーラとかまた予想の斜め上を…」

「それはテメエだろ」

「何言ってんの、俺ファンタ飲むよ」

「俺もコーラ飲むし」

「僕からしたら2人とも意外だって」

付属のストローをプラスチックの切れ目に刺し口をつける。飲めば、久しぶりの炭酸がやたら辛く感じた。
中の氷が溶けた炭酸はあまり美味しくなかった気がするから、さっさと満足する分飲んでしまおう。

「…あのね」

ミルクティーのカップの端を手持ち無沙汰のように指で撫でて、新羅がぽつりと零した。

「私、結婚するんだ」

俺達3人が新羅の顔を見る。見慣れたレンズの奥では、同居人にしか見せないような笑顔が、はにかむように広がっていた。
誰と、なんて誰も問わない。そのかわり、俺の心の中に溢れそうになるのは祝いの言葉。

「おめでとう」

門田が新羅の頭を撫でた。
それにハッとして、俺も無意識のうちに沢山の気持ちが篭ったたった5文字を口にする。だが、その5文字が臨也と被ってしまった。俺の声と臨也の声が被った不協和音に顔をしかめれば新羅と門田に笑われてしまった。

「やっぱり君達は息ぴったりだね」

「顔をしかめるタイミングまで一緒だったぞ」

「全くもって嬉しくない」

俺もそうだよと心の中で毒づいて、でも新羅が余りにも幸せそうだから、そんな気持ちも吹っ飛んでいった。
そうか、新羅とセルティ結婚すんのか。先程の事を、まるで昔の事のように思い出す。そのまま新羅とセルティの薬指に指輪が腰を据えるのを想像して、やっぱり俺も嬉しくなった。

だから、気が付かなかった。
横で笑っている臨也が、先程言おうとした事を心の奥底で何十にも蓋をして、更に何十にも鎖で封をしてしまった事に。


それから数日後、臨也は新宿並びに池袋からぱたりと姿を消した。
それから、セルティと新羅の薬指にめでたく銀の指輪が腰を落ち着けたとしても、臨也は現れなかった。

どうやら、臨也は情報屋を辞め、クルリとマイルを率いて親の元について行ったらしい。






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