超加速、六臂くんのS心 | ナノ





※恥ずかしがり屋泣き虫月島
※まだドはつかないSっぽい道に踏み込んだ六臂









「はじめまして、月島です」

彼が笑う端から花が飛んでいた。
津軽よりも元気に、デリちゃんより淑やかに見える笑顔に思わず魅了されたのは、言うまでもない。

「…初めまして」

一拍遅れたが愛想を込めた笑顔で返事を返す。すると、その矢先から彼は目をぱちぱちと瞬かせた。
そこで漸く気付く。日々也とは違う金に輝く瞳が、前髪に眼鏡でわからなかったが、俺と同じ色だった。
恐らく顔の造り的に俺の方が目は大きい。でも、それに負けない程明るい瞳。
いいな、と思った。会ってほんの数分で、俺は胸に羨望の思いを抱いた。

「俺、色々と音痴で、使えなくて、弱虫ですけど…」

よろしくお願いします。
そう言ってまた笑った彼の口元は、白いマフラーに隠されている。

「俺こそよろしくね。俺は八面六臂。六臂でも何でも呼んで」

「ありがとうございます」

明るい人は好きだ。表情がコロコロ変わる人も好きだ。
愛想笑いを浮かべながら差し出した手に気付いた彼は小さく肩を跳ねさせて、視線を俺に向けたり差し出した手に向けたり。この子は見ていて飽きないかな、なんて思って、また純粋な羨望を抱いた。

「…よろしく、お願いします…」

再度頭を下げ、恐る恐る手を握って来た彼の顔は真っ赤だ。そんな彼を他所に、手はやっぱりシズちゃんと同じ大きさなのかななんて思考を巡らせる。
そういや、シズちゃんに「臨也と混ざるからその呼び方やめろ」って言われていたっけ。白い手を握り返しながら思いかえした。でも、シズちゃん以外だと何と呼べばいいんだろう。サイケのようなシズくん呼びは柄じゃない。だとすれば、単純に静雄呼びだろうか。不意に静雄呼びした時の臨也の嫌そうな顔が思い浮かび、笑みが零れた。
直後目の前の金髪が視界で揺れて、彼が小首を傾げた事に気付く。

「?」

慌てて意識を戻したが、彼はただただ頭上に疑問符を浮かべるだけ。その反応に僅かに安堵しつつ、俺は口を開いた。
未だ彼の頬には朱が射している。握手が恥ずかしいのだろうか。

「君、これからここに住むんでしょ?」

「あ、はい…」

手は、握ったまま。

「じゃあ、俺は君の事なんて呼べばいい?」

「え?」

「普通に月島?それとも可愛らしくツッキー?ツキちゃん?」

手を伝って、双方の体温が馴染みだす、溶けはじめる。
段々体温の差がなくなり、何処かむず痒くなってきた所で手を離した。じんわりと彼の温度に冒された俺の手は、空気に晒され仄かに寂しさを訴える。

「え、えっと…」

「そうだ、初期設定にない?そういうの」

「えっ あ、あります…」

「教えてよ、よければそれで呼ぶから」

「………」

「?」

今まで、控え目でも小さくても返事をしていた彼が、黙ってしまった。
ただ呼び名を教えて欲しいだけなのに、もしかしたら恥ずかしい名前なのかな。
愛想笑いの皮が剥がれかけ、素で口元が吊り上がりかけるのを抑える。いけない、今はまだ上っ面じゃないと。なんて心配は、この鈍そうな男には無用かもしれないけど。

「どうしたのさ、恥ずかしいの?」

「っ、」

お、当たりかな。
とうとう彼の鼻がマフラーに埋もれた辺りで、小さな声が聞こえた。

「…つーくんって、………ついて、ました………」

つー、くん?思わず思考が止まる。何だその、俺の予想の斜め上をいくあだ名。
彼は、それはもう耳まで真っ赤にして、赤みを隠すように顔を手で覆っていた。
いけない、素が出る。咄嗟に違う事を考えようと視線を落としたが、もう手遅れだったようだ。小さく噴き出してしまった。
噴き出して、あろうことか、思いっ切り笑ってしまった。

「ぶふ…っ、…なにそれ、」

「……っ、」

俺が笑う度彼の瞳が羞恥でゆらゆらと揺れる。それに気付いていても、笑いがとまらなくて、もう先程までの優しいお兄さん像は崩していいかなんて思って、また盛大に笑った。

俺の斜め上を行った彼の解答は、俺の化けの皮を容赦なく剥がしてしまった。だからか、今度ばかりは気付けなかった。彼が涙目だって事に。

「…はあ、最近特に面白い事もなかったからなあ、こんなどうでもいいしょうもない事に馬鹿笑いしちゃったよ。…あ、馬鹿って言ったら君もだよねえ、笑われるって解ってて言ったんだもんね。あの沈黙と比例して赤くなっていく君の顔はもう素敵だったよ!純粋な羞恥と不安!君って面白いね!」

ストッパーでも外れたかのように流れ出す言葉の波。
本当に最初に彼に感じたのは、綺麗な羨望だった。
でも、俺はそういう思いを捻くれて受け止め、更に更に捩曲げ己の欲の足しにしてしまう質があった。俺の、悪い癖だった。
無意識の内に素の自分が全面にさらけ出されていて、気付いた時にはほら、もう遅い。

「…あれ?どうしたの、急に…黙り…出し、ちゃ………」

「…っひ、…うぅ」

ぎゃっ。
心の最下層から驚きの声が響く。余りに驚いて心臓がバクバクしている。目の前の啜り泣く声が聞こえなくなるくらいの心臓の音無理矢理を落ち着かせて、恐る恐る彼を覗き込んでみた。

「……っ、…うーっ…」

「つ、月島…?」

「、…ひっ」

「な、何で泣いてるの」

「……っな、いて、…な…っ」

月島の泣き顔に動揺を隠せぬまま思わず周りを見渡す。俺が泣かせた訳じゃない……ですよー、…よし、人はいない。
近付いて頭一つ分高い顔を見れば、長い前髪と眼鏡とさらに手で隠され今一表情がわからない。と、言っても、ただ泣いているだけだろうけど。

「恥ずかしかった?」

「…っ」

「……あのあだ名、嫌いなんだ?」

「………、…ち、が…」

「…違うの?恥ずかしくて泣いてるんじゃなくて?」

「…だっ、て…ろ、六臂、さんがっあんな、楽しそうにわら…っ、」

最初に見せた笑顔より、楽しそうに。
そう言ったぐずぐず泣く彼の顔が、両手の隙間からちらりと見えた。同時にとくんと僅かに高鳴る鼓動。あれ、俺こんな性癖あったっけ?なんて言ってる暇はない。
とにかく、謝らないと。俺は臨也そっくりだし性格最悪だけど、どうにも泣かれると弱いんだ。相手が、サイケだろうと津軽だろうとデリちゃんだろうと、誰だろうと。

「ごめんね、もうからかったりしないから」

「……っう、」

やたら罰が悪く感じて、優しく彼を抱きしめたら、またまた泣き出してしまったようだ。彼に捧げた肩口が冷たい。
彼から顔が見えないようにしっかり抱きしめ、どんどん加速する鼓動がばれないように、下唇を噛み締めた。
泣き顔が可愛い、可愛いからまだ見ていたい、更には弄ってみたいとか、男に思う事じゃないと思うんだ。




超加速、六臂くんのS心
〜ドが付かないだけまだ可愛い〜







 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
書かないとか言っておきながら書いてしまいました…。
ただ、どうにも初めて文にするとキャラが迷子…。派生は特に。
このままだとこれからの月島が不憫過ぎですね^▽^
恋心とともに膨らむ加虐心…因みにこの文では顔見知り以上友達未満です。まだどちらも好きにはなってない…はず、です。ひい曖昧ですみません!




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