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今日は七夕だからさ、願い事でも吊しにいこうか。
短冊にペンを走らせて、出来るだけ高い所に。



来神学校には七夕の前日になると笹が飾られる。
別に大層なものじゃない可愛らしい笹が、総合の玄関口の傍らに飾られる度に、ぱらぱらと生徒が遊び感覚で足を運ぶのはある意味学校行事と化している。
前日に出され、6日と7日の2日間だけ立派な姿を惜しみ無く晒す笹の脇には、学校に通う限りよく見るだろう横長い机と、その上に置かれた短冊の山と数本のペン。
静雄と新羅と臨也と門田は、7日の放課後、その玄関に立ち寄った。もう随分過ぎる程色とりどりとなった笹は、葉にかかった願いの質量に首が折れてしまいそうだ。

「願い事何か決めた?」
「俺は…。…まあ、秘密だ」
「えーっなにそれ!じゃあ新羅は?」
「やっぱり…想いが届きますように、とか?」
「うわあどこの少女漫画だよ」
「酷いなあ!臨也こそどうなのさあ」
「俺?秘密ー!あ、シズちゃんは?決まった?もしかして力が無くなりますように、とか?無くなったら無くなったでシズちゃんはどうせ力が恋しくなりそうだけど、そういう無理がある神頼み、俺は嫌いじゃないよ」
「………」

静雄は何処の誰だか解らない皆の書いた短冊を見上げて、眩しいように目を細めた。実際太陽は分厚い雲のお陰で顔を出してはいないのだけれど、それでも静雄は眩しそうに細めた。
『合格しますように』『G組のあの人と付き合いたい』『皆仲良しでいれますように』
沢山あるどの短冊も、字が丸く、女生徒が書いたんだと認識できた。現実味のある事も、夢見な事も、茶化した事も。
門田はずっと短冊を眺めてある静雄の脇に立ち、すっと腕を伸ばして、右手に持っていた青い短冊を静雄の視界の端に吊した。

「今見るのは反則だぞ、お前が書いてからだ」

静雄の視線が青い短冊に移るなり、門田は手で覆い隠す。門田に次いで「ほら」と脇から静雄に短冊を渡したのは新羅だった。
渡された短冊の色は黄色。太陽光に当たって反射が眩しかった。
何となしに見た臨也は短冊に願いを書いている真っ最中だ。くるくると器用にペンを回し、最後の最後でカシャンと落ちた。それに思わず笑ってしまって、気付いた臨也と目が合った。

「さっきは無視してくれちゃってさー、今度はのぞき見ですかあ?趣味わるーい」
「お前には言われたくねえ」

臨也が笑った、何故だか釣られて静雄も笑う。落ちたペンを拾う臨也が何だかやたら小物に見えて、去年の事を思い出した。そういえば、去年臨也はペン回しが出来なかった筈だ。
『願い事何にした?』『秘密』『ケチ!』
ぼんやりと霞がとれていく記憶が、やたら懐かしい。
ああ何だ、今思い出した。去年も俺達同じやり取りをしていたんじゃないか。
手中の黄色い短冊をぺらぺらと風にたなびかせ、静雄は願い事をこっそり決めた。こいつらにも、他の誰にも見えない所に吊そう。見えるとしたら、この笹を片付ける人だけ。うん、それがいいな。静雄は先程まで臨也のいた位置に立ち、机とともに用意された椅子に座り、ペンを手に取った。

「あ、静雄何書くの」
「秘密だから向こう行け。書きたくても書けねえ」
「けちー。いいじゃない幼なじみの仲だろう!」
「関係ねえ!」

無理矢理新羅を臨也と門田の元に押し込んで、静雄は再び腰を落ち着けた。



『俺はね、シズちゃんが死にますようにって書いた』
『俺はな、臨也が視界から消えて、そのまま世界から消滅しますようにって書いた』
『物騒だよ2人共ー』
『お前ららしいな』



去年の記憶は未だ消えない。たった一年前の癖に、淡く懐かしく感じるこの記憶も、あと数年したら綺麗さっぱり消えてしまうだろう。
静雄は書き終わるなり出来るだけ高く、出来るだけ誰からも見られないように願い事を吊す。
そんな様子に臨也が何か文句を言って、新羅が宥めて。こんな事をしている内にも、時間は過ぎていく。

(今日、星くらいは見えんのかな)

今度は空を仰いだ静雄の、高校3年目の7月7日。





 ̄ ̄ ̄
来年は皆離れ離れになるんだからうんたらかんたら〜とか入れたかったんですが、力量不足でした…。



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