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08/29 21:48


※来神



臨也は同級生に恋をしているという噂が流れた。それは一体どんな人物なのか、はたまた女子なのか男子なのか。性別に関しては大抵の者は女子だと思い込むに違いない。何て言ったって、臨也は列記とした男子なのだから。
しかし、その前に臨也は人間を愛していた。それを熟知している者からすれば、不可解程ではないが、なんとも不思議な話である。

新羅は臨也の恋の相手は静雄ではないかと思っていた。実際、どんな形であれ静雄は臨也の唯一の特別だった。新羅は考える。好きと嫌いは紙一重だと。

静雄は臨也の恋の相手は新羅ではないかと感じていた。静雄からすれば、唯一の友人に臨也が引っ付いているだけで眉間に皺が寄ってしまうのに、そう感じてから一層苛立ちが増した。だが実際、臨也は普段周りに向ける物とは少し違う目で新羅を見ていた。静雄は苛立った。頼むからこれ以上俺の周りを壊すなと。

門田は溜息をついた。新羅の考えも静雄の考えも手にとるように解ってしまったからだ。門田は唯一その噂の真実を知っている。嘘か真か。とにかく、珍しく臨也に同情した門田は2人それぞれに言ってやった。「臨也はあいつを恋愛感情では見ていない」と。しかし、それが真に真かなど門田にも解らない。それに、そう伝えた2人がぽかんとしていたから、その後には罰が悪そうに笑っていたから、きっと少し勘違いをしているだろう。
臨也は、2人を恋愛感情以上に見ている節があった。




「ドタチン」

「何だ」

「今までありがとー」

「…?何が」

「俺の好きな人の話」

「ああ、それか」

「あはは、いつも俺ドタチンに世話してもらってばかりだもんね。でも、これで1つが終わった。お疲れ様でした」


臨也が笑う。門田は嫌な予感がした。


「…どういう事だ?」

「俺、フラれちゃった」


臨也の首筋に赤い滲みが見えた。嫌な予感は見事命中した、その赤は血のようだった。
門田は思わず目の前の詰め襟を力一杯掴む。突然の行動に臨也は体を固めて、まるで竦んだようだった。


「これ、どうした」

「これ…?ああ、まさかこんな所にもついてただなんて」


ヘラヘラした臨也に門田は呆然とした。可笑しい、なにかが可笑しい。漠然とした異変に気が付いた門田は、焦るままに臨也を問い詰めた。静雄は何処だ。そのたった一言に門田の気持ちがすべて詰まっているのを知って、体育館倉庫の裏で別れたよ、と臨也は呟いた。



その後、タイミングよく新羅が現れたからか、門田は一発臨也にお見舞いしてやり全速力で駆けた。恐らく鼻血でも出ただろうが、門田はあの新羅に押し付けた。もう振り向かなくとも平気だろう。
体育以上に足を動かし着いた先の体育館倉庫。鼻をすするような音がして、乱れた息を整えつつ裏を覗き込む。
ジャリ、と靴が音をたててしまって、覗き込んだ先で何かがビクリと意識をこちらに寄越した気配がした。
門田は真っ直ぐにその気配へ歩み寄った。見付けた先にいるのは、予想した人物。


「静雄」


体育館倉庫裏、長い四肢を折り畳んで三角座りをしていたのは静雄だった。門田は優しく静雄の肩に手を置く。少ししたら、膝に埋まっていた顔が恐る恐る上がった。


「静雄、俺だ。もう、大丈夫だから」


何かどろりとしたものがついた金髪を撫でて宥めれば、静雄は双眸に涙を滲ませた。門田はその手についた何かが赤黒い色をしているのを見て見ぬふりをして、髪を整えてやる。


「…門田」

「ん」

「…あいつ、可笑しいんだ。なんか、いきなり俺を人間として見たい、とか言ってきて、」

「ああ」

「気が付いたら俺の目の前にいて、喉元、…掴まされて」

「ああ」

「…あいつの喉、すげえ、細くて、それで、早く殺せって、…俺、訳わかんなくて、」

「…ああ」

「かと思ったら、手首、思いっきり切られて…。傷は深くない、し、…血も、あんま出なかった」

「そうか、じゃあ手首は無事なんだな」

「…でも、次は、少し、首切られた」


静雄が俯いた。門田はひたすら静雄の髪を整えていた。そうでもしないと、総てを口に出してしまいそうだから。


「それで…」

「ああ」

「やっぱり君は大嫌いだ、って、言われた」


今この瞬間、静雄には臨也がどう映っているんだろう。憎むべき、殺すべき敵か。


「勘違いするな、静雄」

「……?」


それとも、憎々しい同級生か。
再び静雄の顔があがる。瞳にはもう涙は浮かんでいない。


「臨也は、お前を認めていない。でも、本心では、お前の事なんて嫌っていない」


臨也の顔が浮かぶ。門田は瞼を下ろした。脳裏に広がる世話の焼ける同級生2人の姿、様子、笑顔。


「勘違いするな。俺はお前の味方だが、背中は押せない。お前の背中を押すのは、お前自身だ」

「…せなか、」

「今日はゆっくり休め。あいつなら逃げない。俺が逃がさない。――本番は、明日な」






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因みに臨也は鼻血出しました。いきなり任された新羅はびっくりですね…。

読んで下さりありがとうございました!


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