旦那が怪我をした。
戦である以上、無傷なんてそうそうないけど、今回ばかりは無策に突っ込んでった旦那が悪い。
大将に(怪我にもかかわらず)殴られてたしね。
それでも後悔した。
ひとつは主である旦那を守れなかったこと。
そして―――もうひとつは今隣にいる"旦那"のこと。
「長、どうしました?浮かない顔をして」
「……旦那が怪我したのに、それを放っておけるの?」
「それもそうですが、戦ですから」
あくまで辛辣な俺様に、苦笑いする"旦那"―――否、絢。
忍隊の中で唯一の炎属性、だからこうして旦那の影武者をやるのだ。
絢は忍隊の中でも、かなりの手練れ。
―――それでも俺様とよく行動してるのは、長という権力を使った俺様の我が儘で。
「絢」
「は、」
幾らか低い声で言えば、感じ取った絢がすこし頭を下げた。
旦那の姿であるから、膝をついた服従姿勢はしない。出来ない。
俺様は絢の姿であっても、それをしてほしくないけど。
「旦那の為にも、怪我なんか許さない」
違う、旦那の為なんかじゃない。
俺様が―――俺が、俺だけが、絢を傷つけていいように。
他の誰にも、傷つけさせやしない。
…ただの醜い、独占欲にすぎないのだ。
「無茶を言いますね、長。……承知致しました」
絢は苦笑いしつつ、言葉とともに会釈。
それから―――旦那と同じように、俺様を見た。
「佐助、」
「…なーに?旦那」
向き合っていた"旦那"が、俺様に背を向けた。
遠くに響く法螺貝の音と共に、聞こえる雄叫び。
ああ、始まったのか。
「お前は俺の背を任せる。…自己犠牲など、許さぬ」
その言葉が旦那の真似じゃなかったら嬉しいのに。
忍にあるまじき思考に内心で嘲りながら、膝をついた。
少しだけ振り返った"旦那"の顔は、見ない。見れない。
「御意。……さぁて、行こうか旦那」
「うむ。―――真田源次郎幸村、いざ参る!!」
戦場に向かう"旦那"の後ろから付いていく。
よく隣にいる姿は、勿論そこにいない。
こう遠く感じるのは、…やっぱり絢、だからなのか。
九歩進んだ先の景色。
(立ってみて初めて気が付いた)
(距離なんかそうないのに)
(追いつけないような気がして)
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16000キリリク邑炉さまへ!
「佐助シリアスめ」とのリクエストでしたが…
当人シリアスになると歯止めがきかないようですorz
忍主は書いてて楽しいです実はw
佐助よりも忍らしい夢主、進まない関係に黒幸村がじれったく思ってればいい。←
邑炉さま、リクエストありがとうございます!
なんかもうすいません…救いがない…!!←
書き直し、何度でも承ります!
100326
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