[Ver.BASARA]


「幸村様ぁああぁあああ!!」


いつものように大声で旦那を呼ぶ、女子の声。
そりゃあもう、大将に負けない位の大声で。
だってそうすれば、旦那はすぐに来てくれるから―――というのが、姫さんの持論らしい。
…そんなことしなくたって、旦那はすぐ来るのにね。


「ひ、姫様!そのような大声を…!」

「幸村様、"姫"はやめてくださいと言ったではありませんか」


ずい、と顔を近付ける姫さんに真っ赤になりつつも、小さな声で「……絢、様」と言った旦那。
ああもう…先が思いやられるなあ。


「そ、それで!何かご用でも…」

「幸村様」


吃る旦那と、大将に似て凛とした姫さん。
……普通、逆だと思うんだけどな俺様。
姫さんはにっこり笑って、旦那の手を取る。
あ、旦那固まった。


「私の事は、どう思っていらっしゃいますか?」

「そっ…その……」


促すこともせず、ただ待ってる姫さんに、旦那は真っ赤になりながらも叫ばない。
そうだよ旦那…言っちゃわないと!!


「絢様を……お、おおおし」

「ぃゆきむるぁあああぁああぁ!!!」

「も…申し訳ありませぬお館さぶぁああぁああ!!!」


大将何しちゃってんの?!
突如走り去った旦那に、姫さんは唖然として、それから苦笑いを浮かべた。
いたたまれなくなって、姫さんのすぐ横に現れる。


「あら、猿飛様」

「姫さん…俺様に敬称なんていらないってば」


だから旦那だって気付かないんだよ、と皮肉めいて言ってやれば、姫さんは挑発的に笑う。
こう人を引き付けるのは、やっぱり大将譲りなんだなって実感するよ、俺様。


「幸村様は直接言ってもお気づきにならないのでは?」

「…言うねえ、姫さんは」


へら、と笑ってみせれば姫さんも笑う。
それから旦那が走り去っていった方を見詰めた。
その横顔は、何処か淋しそうで。


「名前呼びなのも、絢様って呼ぶのも、旦那一人なのにねえ」

「わかっていらっしゃるのなら、どさくさに紛れて呼ばないで下さい、猿飛様」

「ほーんと、姫さんには敵わないな」


あーあ、旦那も早くモノにしちゃえばいいのに。
これはまだ暫くかかりそうだね。






(それにしても大将も空気読まないねー)
(仕方ないですよ、わざとのようですし)
(あ、そうなんだ…)
(はあ…早く娘離れしてほしいですよいい年した大人が)
(姫さーん、何か言葉が痛いよ?)






[Ver.MUSOU]


「此処にいらっしゃいましたか、絢様」

「―――幸村。何用か」


一度分解した短筒を元に戻すべく動かす手は止めず、声の主の方も見ずに聞き返す。
組み立て終わったところで、何もない虚空へと照準を合わせて構えた。
…悪くは、ない。


「いえ、姿がお見えにならなかったので…勝手ながら探しに参りました」

「そうか。見つけたなら良いだろう、去れ」


短筒を下ろし定位置に戻せば、はは、と乾いた笑いが背後から聞こえた。
見てはいないが、恐らく苦笑いをされているのだろう。
…自分が女子らしくなく、まして姫らしくない事くらい、わかっている。


「絢様、出陣を取り消されては?」

「何度言えばわかる。答えは否、だ」


幸村は何時だって、出陣前に問い掛ける。
そして何時だって、同じ答えを返すのだ。

もう耳に痛い、小言というにはあまりにも優しい問い掛け。
この後に続く言葉すら、もう恒例になってしまった。


「でしたら、絢様。この幸村がお守りいたします」

「要らぬ。甲斐の虎が娘、そのように軟弱ではない」


こう言えば、何時も引き下がる。
出過ぎた真似を、と通過儀礼のように決まって繰り返される。
それを煩わしいと思わない辺り、おかしいのだろうか。
―――それなのに。


「そうはいきません、絢様」


今日は、食い下がってきた。
思わず振り返って、幸村の顔を見詰める。
まじまじと見てはみたが、誰かが変化している様子もない。
正真正銘、ホンモノの幸村なようだ。


「我等が武田の姫君を、戦場にだすなど言語道断です」

「今更何を言う」

生真面目な表情の幸村に、自嘲気味に笑う。
己を抱くように触れるのは、右腕。
羽織りの上からでも、その傷跡は過敏に反応した。


「お身体に傷が付きでもしたら…」

「それこそ今更だ。…今日は随分と食い下がるのだな」


必死な幸村に背を向けて問い掛けた。
別に返事なんかは期待していない、けどそれは意外な形で返ってくることになる。

不意に暖かく感じる身体。
―――それが幸村の身体のせいだと気付くのに、数瞬は要した。


「、離せ」

「絢様」


こちらの問い掛けにも答えず、ただ名前を呼ぶ。
その声に、がんじがらめにされたように動けなくなった。





「愛しき者を、わざわざ死の窮地に立たせる輩などおりません」





そう、囁いて。
離れていく熱が、何故かとても勿体なくなって、鉢巻きの先を引っ張った。
…何か潰れた声を出していたが、大丈夫か?


「げほっ…絢様?」

「そう言うのなら、…失敗など許さぬ」


『話すときは人の目を見て』等という教えが頭を過ぎったが、気恥ずかしくなって顔を逸らした。
…なんであんな、年相応の表情をするんだ。







(絢様の命をこの幸村、守ってみせます)
(……様、など要らぬ)
(では、失礼して…絢、私の傍より離れぬよう)


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相互記念・邑炉さまへ!

「お館様の娘に恋する幸村」とのことでしたが…
佐助が出張ってるのは気のせいじゃないです。←
でもこれは幸村だと言い張ります。

今回はおめでたいこともあったようなので、おまけで無双幸村も書いてみましたw
なのにシリアス、しかも女の子らしくない夢主になってしまいました…orz

タイトルは「ヘタレな恋愛に10のお題」からです。
Abandonさま(PCサイト)よりお借りしました!

邑炉さま、こんな物でよろしければお持ち帰り下さいませ!
これからも宜しくお願いします。





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