10 『おーい、バカ武蔵ーい』 「あ、ちょっといいかい?人捜してるんだけどさあ…」 そんなこんなで私たちは武蔵を捜索し始めました。京の街も決して狭いわけじゃないし、見つけるのが困難だっていうのも分かってる、うん、分かってるんだよ?でもさ… 『さすがに誰も見かけてないっていうのはおかしくないか?』 「だよなあ…」 そう、あの武蔵を見たって人が誰もいない。何これ武蔵ってそんな目立たない奴だった?え、まじ何なの? 「おっかしいねぇ…確かに一緒に京まできたんだろ?」 『もちのろんよ。むしろ一緒に来てない人を捜すっておかしいと思わないの?バカ慶次』 「遼ちゃん辛辣ー…」 なんか慶次にあたってしまった。武蔵を見つけられないことに何イライラしてんの、自分。 「しっかし…だいぶ暗くなってきたなぁ…」 『あ…』 確かにもう日は傾いてうっすらと空に月が見え始めていた。 「遼、アンタ宿は?」 『ノー宿っす』 「のー?」 『ああ、宿まだとってないからきっと今日は野宿だと思われる』 「女の子が野宿って…」 まあ、それに関しては私もそう思うよね。武蔵いるから別に危険もないんだけど。 『……………』 「どうしようねぇ…夜になっても京のお祭り騒ぎは終わらないし…」 『………………ろう』 「え?」 『なにやってんだバカ武蔵いぃいいい!!早く出てこいこの―――』 最弱野郎、と叫ぼうとした瞬間 「ん、呼んだかー遼?」 ………………… 「おい、何固まってんだよー!!俺様登場だぞー?もっと喜べよ!」 『……は?』 「……………」 えっと、は? ちょ…いやいや!まさかね!空耳でしょ!!そんな叫んですぐ現れるってどこの武蔵だよってね!!!! 『耳もおかしくなったなー』 「はぁ?何言ってやがんだよ、遼!!」 『いやいやいや、まさかね!さ、慶次!!さくさく捜そうか!』 「え、遼?こいつが宮本武蔵じゃないのかい?」 『は、慶次まで幻聴聞いて幻覚見てんの…!?武蔵恐ろしい子…!!!!』 そんなやり取りをしていればぷっちーんとなる奴がいるわけで、 「…俺様はここにいるって言ってんだろ!バカ遼!!!!!!!!!!」 『うわっ、いってえぇええええ!!!!!?何すんのさ、武蔵!』 「お前が俺様のこと無視すっからだろ!!」 今度は私がぷっちーんときた。 『じゃあ言うよ?言っちゃうよ!?あんた自分からはぐれるなって言っておいて勝手にどっか行っちゃうし、私1人だし、心配したし、必死に捜しても誰も見てないって言うし、現れた!と思ったら食べ物めっちゃ食べてるし……!』 心細かったし、たくさん心配もして捜し回った。そしたら案外すんなり出てきて、 「私1人でバカみたいじゃん…!」 別に武蔵とは出会って数日の関係だけど、この世界で私が頼りにできる限られた人なのだ。 「ああ、遼はバカだな、とびっきりの大バカ」 『なっ…!!!!』 こいつはどこまでもこういう性格なのか、とか思ったけどふと顔をあげて久しぶりに見る武蔵の顔は見たことないくらい真剣だった。 「でも、俺様をそーゆー風に思って泣いてくれるって可愛いとこもあんだな!」 『…っっっはぁ!?ぜんっぜん意味わかんないし泣いてないし!!』 「はいはい、強がり遼ちゃんも可愛いですよーっと」 『からかって言ってんな、武蔵…一発、』 殴らせろ、と言って振りかぶった手はあっさりと武蔵に掴まれて、「はいはい、俺様が悪うござんしたー」なんてへらっと笑いながら受け流された。 くそ…腹立つな…。 「そういえば、そこで丸まってるでっけえ黄色いのは何なんだ?」 『でっけえ黄色……あ、』 完全に2人の世界ですっかり慶次のことを忘れていた。 『あ、うんとーこの黄色いのは前田慶次。今日ずっと一緒に武蔵捜すの手伝ってくれたんだ』 「前田…?あーあの風来坊か!」 どうやら昔会ったことがあるらしい。武蔵の人違いで慶次が大変な目にあったらしいけど。 「良いんだ…俺はどうせどこ行っても空気扱い…もう慣れてるから…いいんだ…もう」 「『……………』」 ええ…慶次ってどこ行っても空気扱いなんだ…。え、めっちゃ気の毒…かっこわらい。 『慶次ー、機嫌直して宿一緒に泊まらせてよー』 「俺様からも頼む、前田ーあ」 「良いよ…旅は道連れだろ…?」 『よしきた!じゃあ早速行こう!宿行こう!!』 「案内しろー!前田!!」 「ぐすっ……」 慶次は泣きべそかきながら宿まで連れていってくれた。ありがたいけど大の大人が泣くなんてみっともない通り越して鬱陶しいわあ。 これから一泊します! 楽しみきゃっふうぅうううううう!!!!!! (俺様この布団ー!) (うわ、ずるい!!!!) (ぐすん…夢吉、俺…悲しいよ) (キキィ…) 夢吉が慶次を哀れそうな瞳で見ていたので更に泣いたのだった。 2012.0313 [しおりを挟む] |