『…んー』 私は目覚めた。 だるい身体を起こしながら辺りを見回す。 『―――そっか、もう…』 みんな元の世界に帰れたらしく、私以外の気配はしない。 でも、確かにみんなは居た。昨日の宴の跡はしっかり残っていて――― 『それにしても…思ってたより片付いてるなあ』 こんなことをするのは佐助だろう。 ふ、と笑みがこぼれる。 (やっぱりオカン気質なんだなあ…) 出逢いは最悪の形だった。 いきなり上に乗っかられて頭しめつけられて、 (うん、かなり失礼だよね) あんなに敵意丸出しだったのに、結構心開いてくれて。 『あれれ?』 ふと目に入る、手首に巻きついている紅。 ひとつには“必ずこれを取りに戻って参る”と、もうひとつには“暫しの間預かっていて下さい”と書かれていた。 (二人とも大切なもの預けていってどうすんの) “真田幸村”という人間は、熱く、鍛錬を怠らず“日本一の兵”の名に恥じない人だった。 (は、破廉恥でござるうううあああ!!!!) 幸村は黒い部分は恐ろしかったけど、沢山の笑顔をくれた。 (今日1日、私達のことを様付けで呼び、敬語で話して下さい) 礼儀正しくて、絶対に逆らえない怖さもあったけど、良い人だった。 『…ん?』 テーブルの上に達筆な字で、“ちゃんと野菜も食えよ”と書いてある紙が。 冷蔵庫を開けてみると、肉じゃがにおひたしが。 (小十郎さんには迷惑かけっぱなしだったよね) 初めは沢山睨まれて、信用してもらえなくて。 (出会って間もない奴に預けられるか) でも、一緒に畑で作業するくらい打ち解けられた。 私は最後になるあの二人の手料理を口に運ぶ。 『…うん、やっぱ美味い』 食べながらどうしようかなと考えていると、また二つの紙を見つけた。 英語で“I love you”と書かれたのと“儂はいつも遼を思い出すぞ”と書かれたもの。 (同じ“伊達政宗”でも正反対だもんね) 伊達はセクハラ大魔王みたいなやつで (Ha!!俺は一晩中Honeyを寝かせねえぜ?) 政宗はツンデレで子供っぽいけど、結局は大人で優しくて (行く場所が無ければ、ワシの城に来ると良い) どっちの伊達政宗も好きだった。 朝食を食べ終わったところで、家の中に忘れ物がないか確認しに行くことにした。 『…うわあ、懐かしい』 廊下に出ると、靴箱の上に新聞紙で作った兜が二つ。 不格好だけど各々の兜にそっくりだった。 (悪戯で作ったのになあ…) 長政さまはいつもお市様のことを気にかけていて、 (良く似合っている) 誰に対しても公平な正義のヒーローだった。 (心配するな、そのような不義はしないと誓おう) 兼続はお酒大好きで、義と愛も好きで、熱く語られそうになった時はどうしようかと思った。 『あ、』 室内で干しているみんなの洋服の中に、際立つ鮮やかな紫。 洗濯バサミから静かに取り外す。 (これ忘れていったら大変なんじゃないかな) 元親はいつでも私の“アニキ”で、 (大丈夫だ…な?) 沢山助けてもらった。 なんだかんだで、みんなといた時間は長くて、ひとりぼっちだったこの家にも思い出が溢れている。両親といた時間よりも沢山で、鮮明で、大切な思い出。 『…さーてと!!』 私はまた今日から“普通”の生活に戻る。 みんなとすごした“特別”な日々は絶対に忘れない。 Fin. |