『…小十郎さん!!恩返しの時間です!』

「あァ?」










私はいつもより早起きをした。
なぜなら、伊達に見つかるわけにはいかないからだ。


今日は伊達主従に恩返しをしようと思ったんだけど…昨日それを改めて言えば、




「恩返しなぁ…何でもしてくれるんだろ?Honey…」



いつもよりギラついた目で伊達にそう言われた。



(アイツなら何をしてくるかわからないからな…)



だから私は、伊達の恩返しを先送りにした。もちろん、伊達には伝えずに。


私は、まだ寝てる人達を起こさないように忍び足で居間へと向かった。



…が、






「お早うございます!遼どのぉぉぉおおおぉ!!」



いつも朝早く起きる真田幸村が、そこに立っていた。



『ちょっ…しっ!!!!声大きい!!』



私はとっさに幸村の口を手で塞いだ。



「ふ、ふはふへほはふ」



口を塞がれているせいで、幸村は何を言っているか分からない。



『…何?』



私が小声でそう聞き返すと、幸村は申し訳なさそうに眉をハの字にして謝ってきた。



「…申し訳ござらん」

『分かれば良いよ。ごめんね?怒鳴り付けちゃって』



すると幸村は驚いたように一瞬目を見開いた後、笑顔で言った。



「いえ、朝から大きな声を出した某にも責任があります故…」

『あ、うん…でもごめんね…』



幸村は「お気になさらず」と言い残して、外に走りに行った。

私は気を取り直して居間へと向かった。











『…お早うございます』


私が控えめに言って居間に入ると、台所の方から「おう」と短く返ってきた。



「…ん?なんだ、早起きじゃねぇか」

『え、えぇ…まぁ』



何だか自分が悪いことをしているみたいで、少し挙動不審気味になった。



「ん?何かあったのか?」

『いっいえ!!何も…』



そうか、と短く答えて朝ご飯の支度を再開した小十郎さん。


うん、言うなら今だろう。

私は腹を括って小十郎さんに言った。



『小十郎さん!!恩返しの時間です!』

「あァ?」



昨日確かに言ったのだが、朝ごはんの支度をしている最中に話を持ち出されると、困った顔になってしまった。



「…だが、」

『いえ、今しかありません!…ダメ、ですか?』



控えめに言った。



「まーまー右目の旦那、遼ちゃんにも事情があるみたいだし?ここは俺様に任せて恩返しされたらどう?」

『あ、佐助』




居間の戸の柱に寄りかかってそう言ったのは佐助で、私が声をかけると笑顔で「おはよう、遼ちゃん」と挨拶をしてくれた。




「…だがしかし、」

「ほら!お二人さん行った行った!!畑にでも行っておいで?みんなにはうまく言っておくから!!」



佐助は私たちの背中をグイグイと玄関まで押して行った。



「すまねぇな、忍」

「良いって良いって、俺様も任せた時あったし?」



じゃあ…と言って玄関から出ていこうとする私たちに佐助は手拭いを渡した。




「陽が昇ってきたら暑くなるからね…それじゃあ行ってらっしゃい」




笑顔でヒラヒラと手を振って見送ってくれる佐助に、「行ってきます」と言って小十郎さんの畑へと向かった。



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