『…よし、じゃあ行こうか!』

「あぁ」



私と幸村は家を出た。
もちろん、佐助お母さんに見送られながら。



「良い天気だな」

『そうだねー…絶好の甘味日和ってやつ?』

「…そんなものあるのか?」

『無いです、すんません。私がバカでした』



くっそー…!!
幸村なら「やはりそうだよな」的なノリでのってくれると思ったのに…っ。




「別に謝らずとも…俺はただ、言っていることが阿呆くさいと、」

『…幸村なんて、置いていってやる!!』



(ようするに、バカにしてんじゃないか!!)



心の中でそう叫びながら、幸村の前をスタコラサッサと早歩きで歩いていった。




「まっ…待ってくれ!」



私がふてくされてる、又は怒ってると思ったのか、少し焦った様子で追いかけてきた。

私は知らない振りをしてどんどん歩いていく。



…すると、



「っっ…すまぬ!!!!」

『…うぉっ!?』



幸村がいきなり手を掴んできた。
力が強いからその反動で、私は後ろに転びそうになった。




『っとと…もー、危ないなー!!』

「あ、いや…すまぬ」



幸村はまたシュンとなってしまった。



「何か気を悪くさせたなら謝る…だから、」



幸村は少し私の顔をうかがうように覗き込みながら、眉毛の下がっている顔で言った。



「置いていかないで欲しいでござる…」












ぶっは…!!!!
なっ、何だこの悩殺的な謝り方はっ!!!!!!

大事なところでござるを使ったり、最後の言葉になるにつれて声が小さくなるところとか…落ちない人居なくないですか?


え、そうでもない?


私が最も幸村に犬の耳と尻尾が見えた瞬間だった。



『うぅ…わかったよ、置いていかないからとりあえず…手、離して?』



先ほどからずっと手が握られていたままだった。




「………だ」

『はい?』

「嫌だ、と言ったのだが」

『……はい?』

「このまま、けぇき屋へ行くぞっ」

『あぁ、そういう…え?』

「さ、早く行くぞっ!遼!!」

『え、えぇ!?』

「早くせぬか。さもなくば…」

『よっしゃ、進みますよ!手を離さないで下さいねー!!』



幸村に負けた…。

私たちはそのままケーキ屋へと向かった。














「あーら、いらっしゃい!遼ちゃん」

『あ、環さん!こんにちは!!』

「よく来てくれたわねー…ってあら?そっちは…?」

『紹介しますね、こちら幸村です』

「お初にお目にかかり申す!某、真田源二郎幸村でござる」

「あんらぁ、良い男じゃないの!何だか口調が昔の人みたいだけど…そこがまたいいわぁ!!」

「は、はぁ」



どうやら幸村は困っているようだ。

それもその筈、環さんは生粋のオカマなのだから!!



まぁ幸村は初めて見るだろうな…。




『紹介するね、幸村。こちら私がいろいろとお世話になった西園寺環さん』

「西園寺環よん。気軽にた・ま・き、って呼んでねん」

「た、環どのでござるな。よろしくお頼み申す」



幸村が…困ってる(笑)
うーん、何だろう…例えるならーそう!!
初めての物を見た小さい子の反応みたいな?



「それじゃあここ座って!今メニュー持ってくるから少し待っててね」



環さんがカウンターの側に行った。




「…遼、」

『なーに?』

「環どのは…佐助に似ておらぬか?」

『ぶっふ…っっ!!そっ、まさかっ…!そんっそんなの環さんに失礼だよっ…!』



佐助が環さんに似てるって事は、幸村は佐助の事をそういう目で見てたって事?

ますます分からぬ、真田主従。



「はぁい、お・待・た・せー♪メニューよ」


環さんが経営するこのケーキ屋さんは、量も、質も、見た目も最高に良いのだ。

量的に言えば幸村に適しているのかも…。




『じゃあ私はチョコレートケーキで』

「はいはーい、幸村クンは?」

「…某はー、むっ!これを食したいでござるっ」



幸村が指を指したのは、苺のショートケーキだった。




「チョコレートケーキとショートケーキねん。了解よ、少し待っててねー」



そう言うと環さんは、俗に言う“カマ走り”で奥の方へ行った。












「はーい、おまちどーさま!ご注文のチョコレートケーキとショートケーキよ。たーんと召し上がれ!!」

『ありがとうございます!』

「いえいえー、いつも贔屓にしてもらってるからねぇ…少しでもお返しをしなきゃ」

『お世話になってます』

「全然良いわよ、遼ちゃんだもの!…それじゃあ、ゆっくりして行ってねー♪」



環さんは忙しそうに戻って行った。




『じゃあ食べようか、幸村!!』

「あぁ!!」

『「いただきます!」』



それぞれのケーキを一口ほおばった。




『…んー!!美味しい!!!!やっぱり最高ーっ!!』

「これは、誠に美味でござるな…!!それに凄く甘いでござる」

『でしょ?量は問題ないと思うし、まだ食べたかったら頼んで良いからね』

「…遼」

「んむ?」




幸村は大口をあけて、私の方を見ている。



『んん????』

「…一口、欲しかったのだが」

『え?あ、あぁ!!ケーキがほしかったのね?』




私は自分のフォークでチョコレートケーキを幸村に差し出した。



『はいよー』

「んむ…少し苦くは無いか?」

『え、十分甘いけど…』




答えると同時に、幸村がショートケーキを差し出してきた。




『食べて…いいの?』

「俺ももらったからな」



じゃあ…と、私は遠慮せずにケーキをもらった。



『…甘い』

「これぐらい甘くないとな!!」



いや、結構げろ甘なんですこども。



「…む、遼」

『ん?な…にっ!?』




幸村が私の唇のすぐそばを指で拭った。




『ゆっゆゆゆゆゆきっ…』

「なまくりぃむ、がついていただけなのだが…何か問題でもあったか?」



そう言って、生クリームを拭った指を一舐めした。



『っっっ…………!!!!』



究極に恥ずかしい…っ!
穴があったら入りたい…!!

ふと気づき、顔をあげて周りを見回すと、周りからの視線が痛かった。


…くそ、やらかした!


きっと周りの認識は

“甘々バカップル”

になっているであろう。


ちっくしょう…!!
幸村、覚えと―――




「何を、だ?」

『何でもないです、すんません』



おっと危ない危ない。
幸村の純白の心には、真っ黒い悪魔が棲みついているんだった。



「んむ、ごちそうさまでござる」

『え、もう良いの?』



幸村が…ケーキ一個でやめた?
もう十分なのかな?




「うむ!ここのけぇき1つ分で団子何十本分もの糖分を充電できるからなっ!!」



あ、そんなに充電できるんですか…。



ケーキを食べ終わった幸村の表情は、とても満足気なものだった。



『そんじゃあ、帰ろうか』

「おう!」



私たちはお会計を済ませ、店を出ていった。
















「…良い風だな」

『そうだねー…夕日も綺麗だし』



今日の夕焼けは、とても綺麗な橙色だった。









…ん?夕焼け?





『…っっあぁ!!』

「む、どうした?遼」

『きっ今日の恩返し、佐助の分もあるんだった…!!』

「あやつなど放っておけばよ…」

『いーやっ、そういう訳にはいかんぜよ!!』

「…何だその口調は」

『あーもう!とにかく!!すぐ帰るよ!!』

「!」



私は幸村の手を掴んで走り出した。




「…走るのなら、負けぬっ!!」

『は?…どわっ!!!?』



なんだかいきなり火のついた幸村が、私より速いスピードで走り出した。



『っわわ!?ちょっと─』



何でこんなことになるのーっ!!!?

私の叫びは、綺麗な夕焼けに吸い込まれていった。













「………………」

『たっ、ただいまー!!佐助お母さん』

「戻ったぞ、佐助」

「…なーにが、ただいまー!!…なのさっ!!散々旦那と遊びまわってっっ!!」

『いっ痛だだだっ!!ちょっ…今時頭ぐりぐりは、流行ってな─』


「うるっさい!!遼ちゃんと旦那は楽しかったかもしれないけどね、俺様は、俺様はっ…ずーっと!!この家の中で炊事、洗濯、家事全般やってたんだからっ!!!!!!!!」




涙ながらに私たちがいなかったときの苦労を話す佐助お母さん。


…あちゃー、悪いことしたな。
忘れててごめんよ。




『…まぁ何と言いますか、もし良かったらこれから恩返ししますけど?』

「もちろんそうしてもらうつもりだったよ!!」

『えーと、何をすれば』

「散歩!!」


『へ?』

「今から俺様と散歩しに行くんだってば」

『そっ、そんなことで良いの?』

「いーよ、これと言ってやりたいことなかったし」

『佐助がそう言うなら、付き合う』

「ん。旦那は家入ったら手ぇ洗って、うがいして、そしたらてぇぶるの上に団子あるから、食べて良いよ」


「流石佐助っ!!では、遼どのっ!お気をつけて!!佐助に何かされたら、すぐに某に言って下され!!」

『あ、うん』




…口調がぁ!!!

団子と聞いてウキウキしている幸村に見送られながら佐助と散歩にでかけた。







「遼ちゃんの家って、海に近いんだね」

『うん、いつでも泳ぎにこれるし…気に入ってる』



遼ちゃんと会話をしながら、家の近くの海岸線を歩いていく。





「…ねぇ、遼ちゃん。俺様もさ、無理は言いたくないんだけどね?一緒について来てくれなーい?お館様に紹介したい、っていうのもそうなんだけど…何より俺様たちが嬉しいからさ。毛利の旦那も喜ぶと思うし…ね、どう?」




俺様が遼ちゃんの方を振り返って、真剣にそう問いかけると─


















『うわー、綺麗な石!!…あ!それに貝殻も…』




遼ちゃんは俺様の後方約5mでしゃがみこんで、綺麗な石や貝殻を拾っていた。




「…俺様ってつくづくこういう役回りなの?」




今日も不憫な佐助お母さんだった…。



(だから、お母さんってやめない!?)



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