『…はぁ』


(目、腫れてないかな…)



あの後、私はずっと泣いていた。
声を押し殺していたけど、バレていないだろうかとか色々心配になった。


『…ここで躊躇しててもしょうがないか』


…私は居間の戸に手をかけた。









『…あれ?』


誰も――居ない?



『お、おーい?誰かー…』


居間の中には私の声しか響かなかった。



『出掛けた…とか?』



それは困るな、警察沙汰になられても嫌だし。
心配をしていると、ソファーの方からカタっという物音がした。


そっと近づいてみると、そこには──




『何だ…政宗か』



政宗がソファーの上で寝ていた。



(…子供みたいな寝顔だなー。)

本人にその事を言えば、きっと「子供ではないわ!馬鹿め!!」と言われるに違いない。

(…しっかし綺麗な顔だな)


寝顔に子供っぽさも大人っぽさも感じる。
何だか不思議。

私は政宗の寝ている近くにしゃがみこみ、膝に手をついて、ボーっと寝顔を眺めていた。



『ねぇ、政宗。どうしたらいいのかな…』


私は寝ている政宗に、心の内を話し始めた。



『みんなはさ、別の世界から来た赤の他人なのに、私と何の繋がりも無いのに、帰る所があるのに、私は…帰ってほしくないって思っちゃうんだ』


「……………」

『わがまま、なのは分かってるよ?けど…わたし、あれ、』



あれだけ泣いたのに、私の目からはまた涙が溢れ出てきた。



「…泣くではないわ、馬鹿め」

『っえ?』


寝ていた筈の政宗が、私の頬に優しく手を添えた。
大きくて温かい手が、長い指が私の涙を拭う。



「確かに儂らも帰らねばならぬ場所はある。…だが、決して遼を一人にはさせん」

『まさっむ、ね…』

「…ワシは遼を連れて帰るつもりじゃ。行く場所が無ければ、ワシの城に来るといい」

『っで、も』

「まぁ、遼にもこちらの世界の事もあるじゃろうし…無理矢理連れて帰りはせぬ」

『そんなこと、言われたらっ…私、』



私の気持ちが大きく揺れ動く。



「遼自身が決めるのじゃ。誰かに強制される必要もない。儂らと行くか、こちらに残るか。もっとも…むこうに行っても帰って来れる確証は…ない。それを覚悟で決めると良い」


『う、ん…ありがと…』

「っ…泣くならしっかり泣かぬか!馬鹿め!!」

『なっ何それ!!意味わからっな…』

「ワシの胸を、貸してやると言ったんじゃ!さっさと泣かぬか!!」

『え…?』



そう言って、顔をそむけた政宗の耳は真っ赤だった。



『…じゃあ、お言葉に甘えて!』



とーう!



「がっは…!?っっ…遼!!いきなり飛び込んでくるでないわ!」

『胸貸してくれるって言ったのは政宗でしょ?』

「うっ…そうじゃが、」

『あー…政宗良い匂い…』

「今すぐ離れろ!変態めっ」

『嫌だよーだ』



暫くの間、私と政宗のじゃれ合いは続いた。



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