あれから大体30分位は経っただろうか。
みんなの飲みっぷりは目を見張るものがあった。

特に凄いなと思ったのは兼続だった。
謙信様が酒豪ってちょっとだけ耳にしたことがあるけど…もう一人で5本ぐらいは飲んでしまっている。

飲んでいる量の割には酔っていないから、兼続もお酒強いのかなー…って思ったり。


次は元親が強そう。
兼続と一緒に話しをしている。

幸村なんかは酒瓶抱えながら眠っちゃってるし。
伊達と政宗は小十郎さんに酌をしてもらいながら、話をしている。
真田さんと佐助は…あれ?苦労話でもしてるのか?

とにかく、みんなの酒の強さは大体想像通りだった。




というかー…あれ、長政さまは?
一人だけ見当たらない長政さま。
居間の中を見渡しても、居ない。
試しに呼んでみた。




『長政さまー?』






…返事がない。
家の中を捜したが、一向に見つからない。

すると私の頬を冷たい風が撫でた。



『…長政さま?』



風の吹いてくる方向へ歩いていくと、縁側に繋がるガラス戸が開いていた。



『…長政さま、』

「…何だ」

『何でこんなところに…』


縁側に腰掛けながら、お酒を飲んでいる長政さまがいた。



「月が、綺麗でな」

『月、ですか』


見上げると、今日はちょうど満月だった。



「確かに綺麗ですね…」

「あぁ…ここは星も見えるのだな」

『まぁ田舎ですし、灯りが少ないですからね』



あははは…という笑い声は虫の鳴き声に溶け込んでいった。
暫く二人で静かに綺麗な星空を眺めていた。



――沈黙が、続く。



その沈黙を破ったのは、長政さまだった。




「…時が進むと、こんなにも平和になるのだな」

『そう、ですね…』



長政さまが少し寂しそうな顔をした。



「市にも…見せてやりたかった…この空を」

『近江では見られないんですか?』

「見られぬわけではない。ただ…この静かな夜は、私の生きてる時代には…なかなかあるものではない」



そうか、いつ敵国が攻めて来てもおかしくない乱世で…生きてるんだ、この人は。
…いや、ここに来た人たちが。



「悪を気にせずにゆっくり出来る時代…市にも兵達にも見せてやりたかった…」


消え入りそうな声でそう言う長政さまを見ているのはツラかった。



『長政、さま』

「…どうした」

『お市様が、この時代来ることが無理なら、長政さまが楽しかったこと・素晴らしかったこと・ツラかったこと…全部記憶に刻んで、長政さまの時代に帰った日にお市様に話してあげれば良いんですよ』

「私が、市に…」

『そうです。お市様は長政さまのことが大好きなんですから、きっと全部受け入れて聞いてくれる筈ですよ?』



…ちゃんと伝わっただろうか。
ううん、きっと―――



「…そう、だな」


長政さまは、哀しそうに笑いながら言った。


「私が、見聞きしたもので市は喜んでくれるだろうか…」

『長政さまの嬉しいことはお市様も嬉しい筈です。お市様は長政さまの感情に振り回されてるんでしょうね』

「なっ…そんなことは、」

『お市様に優しくしてあげなくちゃだめですよ?きつくあたったりとか…たまにはお市様のお話も聞いてあげて下さいね。長政さまは先ばっかり見て、近くのものには全く目が行かないんですから』

「む…そこまで知られているとは、何だか気持ちが悪いな」

「なっ…!?ひどっ!!折角人がアドバイスしてあげたのに!」

「あど…?とは何だ?」

『助言みたいなものです!!』

「助言、か。そうか…」



長政さまは少し考え込んだあと、私の名を呼んだ。



「遼、」

『はい?』

「…恩に着る」

『ぬあ!?』



長政さまは私の頭に手をポン、と置いた。

なっななな長政さまが、礼を!!
というか、手っ!?
いっ意外だ…!!
ずっとこういうことしない人だと思ってたから…!!




『…どういたしまして』

「うむ!遼は悪には染まっておらぬな!!」

『いや、産まれたその日から純白可憐な心の持ち主なんですけど』

「む、嘘を吐くなど悪!!」

『うっ嘘じゃない!!』



やっぱり長政さまには笑顔が一番似合います。


(私に出来ることは少ないけど、貴方たちの笑顔が見たいから…私は貴方たちの力になります)



『じゃあ夜は冷えますし、もう中に入りましょうか』

「そうだな!」


私と長政さまは、居間へと戻って行った。












私たちは、居間へと繋がる戸を開けた。



「ぐっ…何だこの臭いは…!!」

『めっちゃお酒臭い…!!』



そう、私達が居なかったほんの10分位のうちに、居間はお酒の臭いで充満していた。



「おぉ、遼に長政!!何処へ行っていたのだ?」



兼続は、まだ酔っていなかった。
まだ口調もハッキリ、呂律もまわっている。

あぁ、なんか安心。



「あ、遼ろの、長政ろの!」



ブンブンと腕が千切れんばかりに手を振っているのは真田さんだった。



『真田さん、酔ってます?』

「あっははー、酔うらんてそんらぁ」


はい、コイツ酔ってる。

目がトローンとしてるし、顔真っ赤だし、言葉ハッキリしないし。
何より酔ってないって言う人に限って酔ってる!



「ぬぅぅ…頭いらい…」



真田さんは私にもたれかかってきた。
こっこんな真田さんみたことないぞ!!

ちょっと得したな、と思いつつ真田さんをソファーに寝かせてあげた。



『あれ、兼続。元親は?』

「あぁ、元親なら水を飲みに行ったぞ」

『あ、じゃあ意識はしっかりしてるんだ。よかったー…』

「いっつつ…ん?戻って来たのか」



元親が台所から出てきた。



『あ、元親』

「遼、今日は俺酒臭ぇから一緒に寝ねぇ方が良いぜ?」

『うんにゃ!!一緒に寝るよ!』

「…そうか。俺ぁ酔ってんだ、何しても知らねえぜ?」

『手ぇ出したら小十郎さんに殺されちゃうよ?』

「…そら勘弁だな」



よし、これで今夜は安心して眠れるいやっふう!!

身の安全を確保した後、生存確認に戻った。


どうやら、W政宗は両方共ダウンしているっぽい。
二人の政宗の近くに小十郎さんが座っていた。



『あ、小十郎さ「あァ?」ひぃあっ!!!?』



ななっ何か、声のトーンがいつにも増してっっ…ひっひひ低い!!
そしてどうやら目も据わっている。



『あっあああの、小十郎さん?いいっいいや、小十郎…様?あっと、そろそろ政宗達をですね』

「…はっ!何だ、てめぇ…よく見ると美人じゃねぇか」

『へっ』



びっ美人!?
この人は何を言っているんだろうか!!



『あ、じじじじょっ冗談はそれぐらいにして、』

「…てめぇ」

『はい?』



するといきなり小十郎さんは私の腰を引き寄せて、空いている手で私の顎を掴んだ。



『んな!?こここっこっ…!!』

「あんまりそばにいると、今ここで喰っちまうぞ?」

『だっ…!!!?』



いっ今の発言は、絶対幸村が破廉恥っていうパターンだよ!!


ていうか…え!?
小十郎さんこんな性格だった?

一人、脳内で葛藤していると、段々小十郎さんの顔が近づいて来るのがわかった。




『ちょっ…えええええ!?』

「遼、離れろ!」

『うぁ…元親!!助け…っい゛っだ!?』


私と小十郎さんの唇が触れるかと思った瞬間、何故か頭突きをされた。



『っっつ―――!!?』


ちょ、小十郎さんの馬鹿!
貴方一応極殺モードになったら蹴ったり殴ったり頭突きしたりするでしょ!?

ずっ頭突きって…!!
一番破壊力ありそうな攻撃を何故私にっ…!!

頭の痛さに悶えて居ると、急に体重がかかってきた。


『おろ?…っておわっ!!』


押 し 倒 さ れ た ?



『こっ小十郎さんっ!!っ重たいです、とても!!』


うぁぁぁ!!
小十郎さんの全体重がぁっ
きっ筋肉がぁっ

押し倒された(?)けど、微動だにしない小十郎さんが心配になって、肩を揺すってみた。



『こっ小十郎さん?』

「……」



え、シカト?
人の上乗っかっておいて何それ。

おかしいな、と思い顔を覗き込んでみると




「…ぐぅ」



え、


ねっ寝てる?

何この状況?

人様に好き勝手やっておいて、寝るとか…一種の放置プレイかコノヤロー



『…元親、』

「何だ?」

『寝よっか』

「そうだな…」


生き残っていた私達は寝ることにした。



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