「茅、親父が呼んでたぜ。一緒に行くぞ」

「茅、今日もご苦労様です」

「茅ー、俺菓子が食べたい」



…面白くねぇ。



――――――



俺はどうやら、茅と二人きりだと素直になれていないんだとか。貞叔父さんにそう言われた……ってどこでそんな場面、見られてたんだよ!

今日も俺は自室で素直になれるように己に言い聞かせてから、広間へと向かう。


「…兄貴たちがいれば、思ってることを口に出来るのにな」


そうなのだ。自分の周りに誰かしらが居れば、茅にも素直に気持ちをぶつけられるのだ。


(意気地なしめ――)

心の中でそう呟いて、自嘲気味な笑みが浮かぶ。言ったって、何も変わりはしないのに。


「―――あれ?」


いつもこの時間なら兄貴たちや叔父さんたちが集まっているはずだというのに。今日は見当たらない。変わりに見つけたのは、


「茅、」

『――あれ、盛親様。お早いんですね』


掃除をしていたのか、雑巾を片手に薄らと額に汗を浮かべている。笑顔でこちらをむいてそう言われて、少し心臓が大きく跳ねた気がする。


「お前こそ、いっつも早くからご苦労だな」


大丈夫なのかとか、済まねぇなとか、あと一言が出ない。


『いえ、これが私の務めですから』


ふんわりと笑いながらそう返した茅に、どんどん耳が赤くなっていっているのがわかる。

…くそ、らしくねぇ。


「…ったくよぉ、お前はいっつもそれしか言わねぇじゃねぇか。辛くはねぇのかよ」

『そんなこと、一度も思ったことがありませんよ。このような仕事をしていると、不思議と皆さんとお会い出来ますし』


――――俺も、か?


出そうになった言葉は喉に突っかかって消えた。そんな自分に嫌気がさす。


『…盛親様?』


俺は茅の隣に座る。『どうしたんですか?』と、くすくす笑いながら尋ねてくる茅を見ると、頬が何かで汚れていた。


「――お前な、いくら掃除中でも女なんだ、鏡くらい見ろ!」


俺は手の甲でごしごしと拭ってやる。


『いつも気にかけていただいて、ありがとうございます』


その言葉で我に返る。

(うわ、俺何やってんだ!?)

手をバッと引っ込める。己の行動を自覚した瞬間、凄く恥ずかしくなった。真っ赤であろう自分の顔を隠すため、俯く。


『ふふ…優しい御方ですね』


俺は茅の言葉に素直になることは出来なかった。



別におのことなんか

(心配してねぇよ!!)
(ふふ…わかってますよ)

(素直になれば良いのにな)
(無理でしょう、盛親には)
(…ぐう)


ちくしょう!!
今日も素直になれなかった!



―――――――――――――――

今回は盛親。
現代でいう、ツンデレ。
でも盛親の場合、デレツンじゃ…←

最後は入るタイミングを見逃して部屋の外から様子を見守っていた兄たち。


お付き合いありがとうございました。


2011.03.01



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