長曾我部軍では、小さな争いごとが絶えません。そんな争いごとを諌めるのは元親様ではありません。



「おい親房ぁ…今日という今日は何があっても許さねえぞ」

「何のことー?」


あはは、いつにもまして怖い顔ー、と言いながら親房はその場でごろごろしだした。
こんの野郎、とぼけてやがる…!!


「…お前なあ、あのわらび餅は俺のだから絶対食うなって言ったよな」

「なんなの貞兄ー、ちょっとくらいいいでしょ?」


ケチくさいなぁ…と言いながら頬を膨らませる。
こいつ…終いにゃ開き直りやがった。


『あれ、何か揉め事ですか?お二人とも…』

「お、茅じゃねえか」

「ちょっと茅ー!!貞兄ってば酷いんだよ!」


何があったか詳しく教えていただけませんか?とクスクス笑いながらそう尋ねる茅。


「おれが菓子食べただけで怒るんだ!」

「…いや、あのよ、一度や二度ならまだしも、前はきな粉餅、その前は大福、そのまた前はみたらし団子…あげたらキリねぇんだよ」

「そんなの貞兄が一人占めしようとするからいけないんでしょー!?」


もう貞兄とは口聞かないからー!!絶交だもんね!!!
そう言って部屋を出て行こうとする。


「兄弟の間で絶交とは…どうなさいましたか?」

「あ、谷!!」


すると俺が一番この軍でおっかねぇと思うやつ―――谷忠澄がそこに立っていた。


「聞いてよ谷!貞兄がさ、菓子食べただけで怒るんだ!!」

「おや…でもその菓子の包みを見ると、数日前に親貞様が『俺のだから、食べるなよ』と言っていたものではないですか?」

「う…」


間違いありませんよね、親貞様と言ってニコリと微笑む谷。俺は頷いて肯定する。


「自分のだと言っていたものを食べられては誰だって怒ってしまうと思いますが…同じことをされたら親益様も同じ気持ちになりませんか?」

「そ、れは…」


だんだんとばつの悪そうな顔になっていく親房。


「…おれだって食べたかったから」

「ならば、次からは親貞様に分けて欲しいと伝えれば良いのですよ。そうすれば親貞様も分けて下さると思いますよ」


ねえ、親貞様?と同意を求められる。優しい物言いだがその笑顔は否定を許さないもので――


「お、おう!もちろんだぜ」


こう答えるしか道がなかった。


「親貞様もこう仰って下さったことですし、一度謝りましょうか」


黙って頷く親房。


「………ごめんね、貞兄」

「おう、おれも大人げなくて悪かったな。次は一緒に食おうぜ」

「…うん!!」


とりあえずは一件落着、か。


良かったですね、親貞様と言う茅の顔は本当に嬉しそうな表情をしていた。



仲裁

(親房!!てめえ、また…!!!)
(何のことー?知らないよーだ)
(…あれ、また?)
(どうやら一度…痛い目を見ないと分からないみたいですね)



――――――――――――――――――


谷のお話でした。
いまさらですけど、これ読んで下さってる方いるんですかね…(笑)



2011.08.17



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