元親様のご兄弟は、とても個性的な方々で長い間共に時を過ごしてきましたが、いつでも楽しくいられるのです。





「親貞様、ご無事で何よりです」

「おう、戻った」


俺は兵に手短にそう返す。親兄にしょっちゅう使いを頼まれたりして、あまり長い間ここにいれていない。
…んなもん親泰に行かせれば良いのにな。

だんだんっと音が響くぐらいの足音で廊下を突き進んで行く。行き先は勿論―――


「…茅!!」

『あ、親貞様。お帰りなさい』


俺の愛する、愛する茅の元。


「あぁ…久しぶりの感触だ」

『あはは、まだまだ幼子ですね…親貞様は』


俺と頭何個分も違う小さな茅の身体を己の身体に閉じ込めるように抱き締めれば、背中をぽんぽんと叩きながらそんなことを言う。


「貞兄、茅は優しく言っていますが本心は気持ち悪がっているんですよ…知らないんですか?それに貞兄の茅じゃありません」

「弥七郎!そりゃてめぇの本心だろ、阿呆め!!」


言葉を優しく包まないコイツは、俺の弟の香宗我部親泰。外交上手で俺とは正反対の性格。


「あれー?もう帰ってきた!」


予想してなかった、とばかりに声をあげたのは末っ子の島親益。


「…んだよ、傷つくだろうが」

「だって貞兄が帰ってくる日を知ってたら悪戯仕掛ける準備したのに…」


子供が頬を膨らませて駄々をこねるような仕草をする。
…いい歳になってよくも懲りずにやるな、そんなこと。


「…ってまた何かするつもりだったのかよ」

「勿論!!まぁでも今日は仕様がないや、茅ーこっちこっち!」

『へ?あ、はい!!』


呼ばれるがまま、茅は親房の方へ駆け寄る。
…くそ、至福の時間だったのに。


「ほらほら、貞兄!これ見て!!」

「あぁ?ったく…何なん―――」


俺が親房に言われた通り、その手に顔を寄せれば


「っうわ?!!!!!」

「あっはは!!成功成功ー!!」

「実に格好の悪い驚き方でしたよ、貞兄。弟として物凄く恥ずかしいです」


手からは蛙が飛び出してきた。それを見て満足そうに笑う親房と作り物の笑顔で酷い事を言う弥七郎。俺の怒りは、抑えきれなくなってくるまでだった。


「…余程俺を怒らせたいみてぇだな?」

「貞兄、いつも台無しの顔が更に台無しになって救いようがなくなっていますよ。大掃除したらどうです?」

「うわあ、怖い怖い!!眉間にシワ出来ちゃうよ!!」

「…てめぇら、獲物持って表でろ!!!!」


二人の最後の一言で、俺の堪忍袋の緒が切れた音がした。


「では―――貞兄が無事に生還してしまった記念に手合わせといきましょうか」

「久しぶりだな!あ、茅は危ないからここから一歩も出るなよ!!」

『承知しました!お怪我だけはしないで下さいね』


親兄が乱入して谷にこっぴどく説教を食らったのは言うまでもない。



野にく華のように

(全く…一国の主が兄弟喧嘩を止めずに何をしているんですか)
(す、すまねぇ…)


お前は俺たちにとって、雑草の中に誇らしく咲く綺麗な華みてぇだ。



―――――――――――――――


今回は長曾我部四兄弟のお話。

因みに武器
親貞→大剣的なもの
親泰→槍
親益→小刀みたいな短いやつ

親益は、すばしっこそうだったからこんなイメージ。

あ、茅さんは誰のものでもありません。


お付き合いありがとうございました!!


2011.02.27



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