07 あれから、一刻程経ったくらい。城下からは何の音も聞こえなくなった。 「…佐助」 「才蔵!」 佐助様と共に幸村様にお仕えしている忍、霧隠才蔵様が私達が息を潜めていた木に現れた。 「…どうなった?」 「つい先程…織田軍が撤退して行った」 『…っ行きましょう、佐助様!!』 「え…?」 織田軍が1人残らず撤退していったのなら、村へ行って様子を見る他ありません。 そう口早に告げれば、佐助様は 「…今村へ行ったら、姫様には見せたくない…残酷な光景が広がってるよ?」 と、静かに、私を諫める様に言った。 『良いのです、私だけ目を…背けてはいけませんから――』 私は強く佐助様を見つめる。 「…分かりました。その変わり、俺様と才蔵から離れないで下さいね?」 『わかっております』 そう返事をすれば、佐助様に抱えられたまま城下へと向かった。 『嘘…でしょう…?』 私達がついた頃には火は小さくなり、収まりかけていた。 『あ…幸村様…』 村の真ん中で、座り込んでいる幸村様を見つけた。 駆け寄ると、 「っ……うっぐ…っ!!」 涙を流しながら、小さな亡骸を抱えていた。 「某……は…っ!!」 『――――っ!!』 その亡骸は、今朝幸村様と約束を交わしていた男の子で…傷を負っているのにも関わらず安らかな顔をしていた。 『う、あ…っ』 …眩暈がする。ちゃんと立っていられない。 「姫様!?」 その子の傷は、寸分狂わず父上と母上と同じ場所にあった。 「某は、約束を…守れなかった…この子を……護れなかったっ!!!!」 「幸村様、しっかりして下さい」 才蔵様が泣きじゃくる幸村様を落ち着かせに行く。 『…っ…う』 「どうしたの、姫様!!」 私は今までにない、激しい頭痛に襲われる。立って居られなくて、佐助様に支えられる。 「…大丈夫?」 『す、すいま…せ』 痛みを堪えながら、周りに倒れている人を見れば、傷は全てあの男の子と同じ場所に。 『な…ぜ、』 何で、何で今になって… 『うっ…!!』 血の臭いと真っ赤に染まっている村人達を見て、あの日の光景が脳裏を過る。 「しっかりしてくれよ!!姫様っ…」 佐助様が呼び掛ける声を聞きながら私は気を失った。 [しおりを挟む] |