06



「…全兵に伝えよ、出陣じゃと」

「はっ!!!!」


足軽はすぐさま城内に居る全ての兵士へと伝えに行った。


「…っくそ!!」


幸村様は近くにあった柱を思いきり殴りつけた。建物が僅かに揺れる。


「幸村よ、情に流されるではないぞ…冷静になるのじゃ」

「わかって、おります…」


そうは言ったものの、悔しそうに歯を食い縛る力は緩まなかった。


「佐助、」

「はっ」

「忍達を幾らか先に村へと向かわせよ」

「御意…!!」


佐助様はそう命じられるとその場を去った。


「行くぞ、幸村」

「…はい!!」

『あ、あの…!!私はどうしていれば?』


こんな攻撃が仕掛けられた中、城に誰もいなくなるとなれば身の保障はない。堪らなくなって聞いたのだった。


「お館様!!…忍の方は送り出しました」


スッと音がしたと思えば、佐助様が戻って来た。


「うむ、ご苦労」

「えーと…俺も向かいますか?」

「お主は咲を連れて木の上にでも身を隠していて欲しい」

「…御意」


いつも幸村様と出陣なさる佐助様が、今回は私を守らなきゃいけなくなった。少し顔に陰りがさした気がした。


『で、でも佐助様は幸村様をお守りするのでは――』

「大丈夫でござる」


幸村様は微笑みながら、でも力強く


「某も1人の武人、心配などご無用にござります!!」

…と。

そう言われれば頷くしかなかった。






「皆様…本当にご無事でお戻り下さい…!!」


兵士達を見送ると佐助様に抱えあげられる。


『…ひゃあ!?さ、佐助さま!!!?』

「身を潜めていろ、っていうのが俺様への命。それならどこかに隠れなきゃならないでしょ?」


いや、そうなんですけど…


『ひっ…!!たっ高…おちっ…死っ!!』

「ちょ、少し落ち着いてよ姫様」


普段から登り慣れてる佐助様と違って、産まれて初めて木に登る私では心構えが違う訳でして、


「もう!!あんまり騒ぐと見つかるし、落ちたら死んじゃうよ?」

『――っ!!!!』


それを聞いた瞬間、私は騒ぐのをやめた。


「良い子良い子」


佐助様が私をあやすように頭を撫でてくる。


『……子供扱いしないで下さい』

「えー、そう言われても姫様と俺様、7歳も離れてるんだぜー?」

『…もう良いです』

「ごめんごめん」


私が拗ねた顔をすると、少し困ったような顔をしながら謝ってくれた。


「…それにしても、何でこんな時期に織田が?」


佐助様は分からない、と言う風な顔をしながら呟き、考えこんでいる様だった。



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