02 「うお館さぶぁああ゛あぁあ!!」 「ゆきむるぁあぁああぁああ!!」 『…お早うございます』 広間に着くと、毎朝恒例(…朝だけじゃないけど)の殴り合いが始まっていた。 お館様の武田信玄様、信玄様をお慕いして止まない真田幸村様。 そして―― 「あ、お早うございます姫様」 幸村様の部下である、猿飛佐助様…このお三方と武田軍の兵士の方々に囲まれ、賑やかな日々を送っています。 私はあの事件の後、山本勘助様に拾われ、武田軍まで連れてこられました。 最初は、与えられた部屋に閉じこもってばかりいましたが信玄様を始め、多くの武将の方が接して下さりました。 信玄様は我が子同然の様に接して下さり、皆様から姫様と呼ばれるようになってしまいました。 穏やかな心や日常を取り戻せたのも、他ではない、武田軍の皆様です。 本当に…感謝してもし尽くせない限りです。 「…ごめんね、毎朝毎朝」 佐助様が凄く申し訳なさそうな顔で言う。 『いいえ…信玄様と幸村様がああやって居られると謂う事は、世が平和だと証ではありませんか』 「…まぁ、そうかも」 苦笑いしながら佐助様と顔を見合わせる。 「ちょっと俺様止めてくるね?」 『はい、宜しくお願いします』 佐助様は面倒臭そうな顔をして、仲裁に行った。 「おぉ、咲」 『勘助様!』 信玄様達を眺めていると、勘助様が部屋に入って来た。 「まだ食べておらぬのか?」 『えぇ…また信玄様と幸村様が殴り合いを』 「な…!はぁ、またか」 ため息をつきながら頭を抱える勘助様。 隻眼で片足が不自由ながらも、信玄様の為に軍師として尽くしていて、兵士達からの信頼も厚い。 「何か困った事などはないか?」 『大丈夫でございます。今の環境にとても満足させていただいてますので…』 そうか、と言って微笑む。 「では、私はこれで」 勘助様は自室の方向へと歩いて行かれた。 「咲様!!お早うございます」 幸村様が挨拶をして下さった。 『お早うございます。満足なされましたか?』 「はい!佐助にも朝餉が冷めると言われたので…」 あぁ、そういえば朝餉の時間でしたね。 『お早うございます、信玄様』 「うむ、朝から元気そうで何よりじゃ」 信玄様方には負けますけどね、と言えば笑い声で返ってくる。 私達は朝餉を食べ始めた。 [しおりを挟む] |