00 あの日の光景を今でも覚えている。 『ち、ちうえ?』 朝起きたら、父上が身体中に傷をつくり…血塗れで倒れてこと切れていたことも、 『咲…』 『は、ははうえ…!?』 母上が傷だらけで私の前に現れたことも。 『に…げて…』 『母上!!』 母上は私が駆け寄ると、優しく抱き締めてくれる。 『…良い?咲と――は、私達の…希望なの』 『母上、血が…!!』 腹部を斬られたのか、血が止めどなく溢れてくる。 『…ここに入って、息を潜めていなさい。絶対に…絶対に出てき、ては…っ駄目よ?』 母上は私を輿の中に入れる。 『いや…嫌です母上!!』 『お願い…貴方たちは…どうか、幸せに…』 涙が止まらない。 私が輿から出ようとしたその時。 『あっ…!!!!』 母上の短い悲鳴が聞こえた。床に誰かが崩れ落ちる音がする。私は自然と呼吸をするのを忘れていた。 恐る恐る隙間から部屋を覗けば、自身の血で真っ赤に染まった母上と、傍らに母上の血であろう物で染まった凶器を持ち、漆黒に身を包まれた男が佇んでいた。 『…っ!!』 身が強張る。 動くことも息をすることも出来ない。 漆黒に包まれた男は、烏の羽を舞い散らし…音もなくその場から去った。 [しおりを挟む] |