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あの日の光景を今でも覚えている。

『ち、ちうえ?』


朝起きたら、父上が身体中に傷をつくり…血塗れで倒れてこと切れていたことも、

『咲…』

『は、ははうえ…!?』


母上が傷だらけで私の前に現れたことも。


『に…げて…』

『母上!!』


母上は私が駆け寄ると、優しく抱き締めてくれる。


『…良い?咲と――は、私達の…希望なの』

『母上、血が…!!』


腹部を斬られたのか、血が止めどなく溢れてくる。


『…ここに入って、息を潜めていなさい。絶対に…絶対に出てき、ては…っ駄目よ?』


母上は私を輿の中に入れる。

『いや…嫌です母上!!』

『お願い…貴方たちは…どうか、幸せに…』


涙が止まらない。
私が輿から出ようとしたその時。


『あっ…!!!!』


母上の短い悲鳴が聞こえた。床に誰かが崩れ落ちる音がする。私は自然と呼吸をするのを忘れていた。

恐る恐る隙間から部屋を覗けば、自身の血で真っ赤に染まった母上と、傍らに母上の血であろう物で染まった凶器を持ち、漆黒に身を包まれた男が佇んでいた。


『…っ!!』



身が強張る。
動くことも息をすることも出来ない。

漆黒に包まれた男は、烏の羽を舞い散らし…音もなくその場から去った。



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