09 「風魔…っ!!」 キッと睨み付けても風魔は表情を変えない。 …とは言ったものの、そもそもこいつには感情があるのだろうか。 まぁ、忍に情なんてあってはならないのだけれども。 「佐助、」 才蔵が視線を風魔にやったまま言う。 「俺が引き付ける…そのうちに、幸村様と咲様を安全な場所にお連れしろ」 「…分かってるって!!」 俺様は素早く武器をしまい、空いた方の腕で放心状態の旦那を担ぐ。 「っ…ちゃんと成長してんじゃないの、旦那!!」 旦那の成長っぷりに今は苦い思いをしながらその場を去ろうとする。 ―――――が、 「うっ…!?」 「え、ちょっ…才蔵!?」 普通の武将並みに強い筈の才蔵が、今まで俺様でも勝てなかった才蔵が、 「…嘘だろ?」 風魔の一撃を鳩尾に食らって、その場に伏せてしまった。 「…っ冗談キツいぜー」 両手は生憎塞がっており、どちらかを下ろすと言うことも出来ない。 俺様が一生仕え、護らなきゃならない旦那と、お館様から任された武田軍のお姫様。 ―――何としてでもこの場を切り抜けなければならないのだ。 ところで、風魔の目的は何なのだろうか。 織田の軍勢に紛れて何をする気だったのか。 (…読めない奴) じりと地を蹴ろうとした。 「なっ…!?」 いつの間にか、風魔の分身に取り囲まれていたのだ。 「俺様としたことが…!」 マズった…よな。 分身が矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくる。俺様も分身出来たら上手く逃げれたのかもしれない。だが印を結ぶ暇など与えてくれる訳がない。 「いっつ…!!!!」 上手く躱していたのだが、普段経験しない両腕の重みが身体の自由を奪っており、足に怪我を負ってしまった。 だらだらと止めどなく血が溢れる。 (…二人は、無事か) 俺様はここで戦って二人を護れさえすれば死んだって構わない、と思っていた。 ―――俺様にとって、二人は大切な存在なのだから。 [しおりを挟む] |