「ずっと、隠してたんだけどさ」


日はとうに暮れ、体育館の外は藍色に包まれている。いつも通り居残ってシュート練をしていると、高尾がふと口を開いた。


「俺、超能力者なんだ」

「………は?」


モーションの途中の体勢のままゆっくり振り返ると、無駄に晴れ晴れとしたその笑顔。


「高尾、今から言う番号に今すぐ電話するのだよ。いいか?119だ、いち、いち、きゅう、なのだよ」

「真ちゃん!俺別に病気じゃないけど?!」

「む…じゃあ、110番か?」

「真ちゃん!アンタは俺をどうしたい訳?!」


半ば本気だったのが伝わったのか、高尾が肩で息をしつつ全力で叫ぶ。


「………真ちゃん、全っ然信じてないだろ」

「信じられる根拠がないのだよ」


超能力など、非科学的だ。馬鹿馬鹿しい。


「えー。でも俺、今日真ちゃんが世界史の時間超眠そうだったこととか、珍しく物理の練習問題1問ミスってたのとか知ってるぜ?」


俺、真ちゃんの前の席なのに!これって透視じゃない?!

自信満々のその顔が鬱陶しくて、俺は口を歪めた。


「お前は、授業中の7割は後ろを向いているだろう。……分かって当然なのだよ」

「あ、バレた?」


ケタケタと笑う高尾。何がそんなに面白いのか、俺には分からない。

いい加減付き合っていられなくなって、俺は練習に戻る。膝を深く折って、右手は添えるだけ。鮮やかな放物線は、ネットを揺らすこともなく正確にゴールへ吸い込まれていく。


「おおー!さっすがうちのエース様ッ!!真ちゃんサイコーッ!!」


ふぅ、と息を吐こうとすると、それを邪魔するかのような声。

正直、イラッとした。


「〜〜高尾!!………ッ?!!」

「お?」

一度、厳しく言ってやろう。

そう思って振り返ると、目的の黒い瞳が予想よりずっと近くにあり、思わず息を呑んだ。


「……しーんちゃん」


こいつは、それを見逃さない。きゅ、と甘えた猫のような瞳で俺の首に腕を回す。


「俺、超能力者だから、真ちゃんの心も読めるんだけど」


長めの前髪が、俺の顎を擽った。


「真ちゃん、今俺とちゅーしたいって思ってるでしょ?」


ねぇ、しても良いよ。
どうせもう、宮地サンだって帰ってるっしょ。

そう囁くのは、普段とは違う声。


「誰も見てないよ、真ちゃん。ねぇ、」

「五月蝿いのだよ」


誰もいなかったから。
コイツが、俺を不機嫌にさせたから。
コイツが、俺の首に腕を回したから。

ほんの一瞬、脳内で並べた言い訳。

(コイツが、)

コイツが、俺の心を当てたから。


「……んっ、」


2人の間で、くぐもった声が1つ漏れた。





『エスパー』
(まぁ、真ちゃん専用だけど!)
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