蘭←マサ前提からの京マサ



「……恋ってなんだろうね」

俺は生まれてこのかた恋、というものを知らなかった。好きの意味を知らなかった。恋なんて一体なんなんだろか、今までそう疑問に思って生きてきた。


愛情をしらない俺に恋なんてあるわけがない、そう思ってた。けれどもつい最近の話、俺は恋を知った。恋を知って気がついた。好きっていうのは相手を知らぬまに目で追ったり、他の奴と話していると、胸の辺りがモヤモヤして嫉妬といった感情を抱いたり。でも俺は恋を知ってから恋が嫌いになった。だってすごく怖いんだ。


「先輩。俺あんたに恋、しました!好きなんです!」

「…狩屋…悪い。俺はお前の気持ちに応えられない。お前の事は嫌いなんかじゃない、でも……ごめんな」


思いきって伝えた言葉に対して先輩の困ったように優しく笑った顔が妙に俺の胸に刺さってきた。痛くて、怖くて、怖くて、たまらなかった。傷付くのが嫌だった。頑張ったって相手が自分を見てくれないこの虚しさと屈辱的思い。

悔しいのか悲しいのか、それとも寂しいのか。身体が冷えたようにゾクゾクッとなりながら涙が次々と流れ、頬を伝い服やら地面に染みを作っていった。


「……ヒッグ…ヒッ…グ」

「頑張ったんだな、お前」


全てを話した俺の頭に剣城君がポンッと手を置いてきた。俺は耐えきれなくなって彼に抱きついたが、剣城君は特別驚いた様子はなかった。


「うっ…こんなことになるなら、こんな気持ちに気が付かなきゃ…よかった。……恋なんて知らないほうが良かったんだ」


知らなければこんなに苦しまずに良かったんだ。苦しいや辛いといった感情には慣れていた気になっていたけど、全然だったみたいだ。


「本当にそう思うのか?」

「え?」

剣城君は何がいいたいのか、このときの俺にはわからなかった。少し顔を離して上を見上げればいつも以上に真剣な眼差しでいる剣城君がこちらをみていた。

「気持ちに気づけたんだ、プラスに考えれば次につなげなれる。無駄なことなんかじゃない」

「無駄じゃない」

「そうだ。今は悲しく辛い事でもいつかきっと良かったと思える日がくる。だから今は無理をしなくていい」

「うん。……剣城君って意外と優しいよね」


ありがとうとは思っても上手くだせない。代わりに意地悪そうな顔してんのに、と嫌味の言葉が咽まででかけたけど、ぐっと押さえた。剣城君は俺の言葉が嫌だったのか恥ずかしかったのか、別に、とぶっきらぼうに答えた。

「ふーん」

「俺は…ただ、自分のためにやっただけだ」


近くにいる俺でさえも聞こえないくらいの小さな声ではっきり彼がそう言ったという自信はないが、ポソッと最後に言った二文字の言葉は深く耳に刻まれた。


「  」


涙が出るほど嫌なはずなのに、俺は俺を好きといってくれた恋に恋をする。結局俺は学習しない、ただのバカみたいに。


「俺、バカだよ。まだ引きずるかもよ。愛情を知らないよ。それでもいいの?」


今はそれでいいと言った彼の顔は耳まで赤くなっていた。結局恋の答探しはまだ終わらない。



END

(恋の正体)




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