※吹雪と風丸が同じ高校 モテる男は辛い。そんな台詞をどこかの漫画で聴いたことがあるけれど、まさにその通りだと僕は思う。美味しいチョコを貰えるのは嬉しいけど、食べきれるような量じゃない。バレンタインなんて言う鬱陶し行事は誰がつくったものなのか…多分その人はモテる男の気持ちを知らないのだろう。 朝、いつも通りに学校に登校する。パカッと自分の下駄箱を開けてみれば、ほらボロボロと無理矢理詰め込まれていた箱が溢れ帰ってきて僕の足元へ落ちる。 「おはよう。毎年の事ながら凄い量だな」 「あっおはよう、風丸君。女の子が僕のためにくれるのは嬉しいけど、渡し方を考えて欲しいよね」 だって靴箱だよ。いくら箱に入れてあるからって、不潔不衛生とか貰う人の気持ちとか考えないのかなと、少しばかりここにチョコを入れた女の子の思考を疑う。 「まぁ…直接渡すのって勇気がいるし、恥ずかしかったんだろ」 然り気無く女の子にフォローを入れ、風丸君も何気なく靴箱を開ける。すると僕のと同じようにボロボロと床に散らばる四角い箱。ついさっきまで笑っていた風丸君の表情が一瞬にして強張る。 「よっモテ男君」 僕が声をかければグダッと項垂れる風丸君。所詮彼も僕と同じだ。 「こうなると教室に行くのが少しばかり怖いな…」 お互いに足下に落ちてしまった物を拾いながら、この後待ち受けているだろう光景を想像し少し身震いしてしまう。 「でもまぁ渡されて悪い気はしないよな」 「まぁね、でも僕の勝手な考え方なんだけど、こうゆうのって直接相手に渡さないと意味がない気がするんだよね」 風丸君は少し驚いたような表情で、吹雪でもそういう考えを持つんだなと小さく笑ってみせてきた。 「……失礼な」 「ははっ…ごめんごめん」 本当に謝る気があるのだろうか。彼は軽く謝ると纏めた物を持ってさぁ行こう、と立ち上がり、僕もそれに合わせる。 「そういえば、風丸君から僕にチョコはないの?」 「え」 バサッと手に持っていたチョコ詰めの紙袋を落とし、顔を赤く染める風丸君。なんとも可愛らしい。 「…な、無いことはないけど、」 「えっ本当?」 僕が嬉しいなぁと言っている間にも風丸君はガサガサと自分の鞄を漁り始める。はい、と鞄から出されたのは僕にとって見覚えのある箱。バレンタイン様に飾り付けらていて、いつもとは少し違った見た目をしているけど、僕の目に間違いはない。 「これ!僕が大好きメーカーのチョコ?なんで!」 「あ、やっぱりな!こないだ一緒に帰っている時お前商店街で妙にそのチョコ気にしてたみたいだったからさ、もしかして!って思って」 良かった、とはにかむ彼。そんな彼を僕は力任せに抱きしめる。 「吹雪!ここ学校!昇降口!」 風丸君は慌てたように僕の腕の中でもバタバタと暴れているようだったが、僕はお構いなしに抱き締め続けた。だって風丸君はちゃんと僕の事、気にしてくれていたんだ。見ていてくれたんだ。 「…ごめんね風丸君。でも僕嬉しくて…ありがとう」 ホワイトデーは楽しみしててね。3倍にして返しが常識とされているけど、僕は一体何で風丸君にお返しをするをしたらいいのか、…今月はもう小遣いがほとんど底をついている。そうだ足りない分は愛で返そう。そうしよう。僕って結構頭がいいのかもしれない。よし、これに決定。 END (バレンタインデーの憂鬱) |