はい。そういって瞳子さんから手渡されたのは2つに折り畳まれた真新しい紺色の携帯電話だった。

「部活もあるしそろそろ連絡とるのに必要でしょ?」

俺は携帯を受け取った。本当にこの携帯は俺が貰い使っていいものなのかと受け取ったものと瞳子さんの顔を交互に見る。すると瞳子さんはそんな俺を見て優しく笑い、これは貴方が使っていいのよと言った。

「……あ、ありがとう、ございます」



翌朝俺は、携帯に傷がつかないようにとそっと鞄にいれて学校へ向かった。

その登校途中、いきなり携帯が震え始めるものだから慌てて取り出すと、昨晩メアドを登録したばかりのヒロ兄からのメールだった。


from 吉良ヒロト
件名 初メールだよ

―――――――

おはよう、マサキ
気をつけていってらっしゃい!

-end-


わざわざこんなことでメールしてくるなんて暇な人だと悪態をつくものの、俺は初メールと言う言葉を少しこそばゆく感じていた。
返信は学校についてからといつもより速いスピードで足を進めた。

いつもなら部室に着くのは最後のほうで遅刻ギリギリが多いのだが、考えてた以上に早くついたのか部室にはまだ誰もいなかった。

「ラッキー!一番乗りじゃん」

着替える前に返信すべく近くの椅子に座り、慣れない指を動かす。

「おはよう狩屋。お前が早いなんて珍しいな」


作業中いきなり後ろから声をかけられ危うく携帯を落としそうになる。誰だと振り替えるとそこには物珍しそうな目をしている霧野先輩の姿があった。

「!うわっ…いつから」
「ん?今さっき。気がつかなかったのか」
「えぇ、まぁ」

何にそんなに集中していたんだ、と手元を覗き込まれる。


「お前携帯持ってたっけか…?」
「昨日からですけど。」
「ふーん。」

少しの間が開き、すると何を思ったのか霧野先輩は自分の鞄をゴソゴソと漁ると何かを取り出す。

「なぁメアド交換しないか?」
「……はい?」


いきなりのことで、しかもまさか霧野先輩の方から交換の申し出がくるとは、俺にとって思ってみなかったことで俺は少し間を置いてからいいですよ、とだけ返事をした。

赤外線でいいだろ?と聞くと俺が赤外線という存在を知らないのを見越してか画面を指差しながら教えてくれた。

「はい完了」
「あ、ありがとうございます…」


新しく加えられた霧野蘭丸という名前をみて少し顔が熱を持つのを感じた。

「好きな時にメールしてくれていいからな」

ポンと軽く頭を叩くと霧野先輩はその場を離れユニフォームへと着替えを始める。

「!だだ誰がアンタなんかに」


恥ずかしいさからなる熱が更に顔を暑くさせる。「誰がアンタなんかにメールなんてするか」と最後まで言ってやりたいが、最後まで言わない自分がいる。

こうなったら嫌がらせにイタズラメールを作ってやると霧野先輩宛の初メールを作りはじめる。

これはちょっとした照れ隠しなのを貴方は気づいてくれますか。



END

(メールとその思い)




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