キャプテン円堂の声がグラウンドに響き渡る。 それに続いてチームメイトの威勢のいい声が円堂の声に答えるかのように続いて聞こえてくる。 俺はそんな日常的な練習風景をみてため息をつく。 「何、ため息ついてんだ?」 後ろから声をかけられ、振り返ればいつからいたのか、風丸の姿があった。 「…なんだ。風丸か。」 「なんだってなんだよ。悪かったな俺で」 俺の言葉に不貞腐れように嫌味の意を込めた言葉で悪態をついてくる。 「…お前は練習に入らないのか?」 「あぁ、今は……休憩中。」 正直、今の俺が練習に入っても集中できずみんなの邪魔になることは目に見えている。 風丸はそっか、と相槌を打つと俺の横へと腰をおろした。 「それじゃあ、俺も休憩!」 ランニングを終えてきた所なのか、風丸の額や首筋にうっすらと汗が滲んでいた。 それからというもののお互いに口を開くことなく、ただ目線をグラウンドへと向け黙ってただ練習を眺めていた。 俺の目線の先は自然とヒロトへと向いていた。 暇さえあれば、目で追ってしまう自分に嫌気がさしてくる。 だけど、それほどに自分はヒロトの事が好きなんだと自覚させられてしまう。 「ヒロトっ!」 鬼道がヒロトに向けてパスを上げる。 「流星ブレード!」 ヒロトの渾身のシュートだ。 だが、このシュートがゴールに入ることはなく、円堂によって阻止された。 ヒロトはと言うと悔しがる所か笑顔で円堂の元へとかけよっていった。 俺はこの時、何故か胸がぐっと締め付けられるような感覚に陥った。 「…………っ、」 「……悩みの原因はヒロト…か、」 「っ!?か、何を!!」 顔に出てしまっていたのか、いきなり核心をつかれ、風丸の方へと目をやると、風丸はどこか楽しんでいるようないたずらな笑みを浮かべていた。 「お前、結構わかりやすいな」 「……風丸は意外と意地悪なんだね」 そんなことないさ、と笑う風丸。 「それで?喧嘩でもしたのか?」 「…別に」 そんなんじゃないさ、と小さい声で呟き、風丸から目を反らす。 視線の先はヒロトへと戻る。 風丸も俺と同じように視線を向け、何かに気がついたのかあっと言葉を溢した。 「円堂か…」 俺は風丸のこの一言に頷かなかった。 気づいていたけど、気づかないふりをしていただけなのかもしれない。 俺の中で渦巻いている黒く醜いこの気持ちに。 「円堂はみんなに慕われている。凄いやつだって知ってるし、ヒロトがそんな円堂を憧れの眼差しでみていることも知ってる。……知ってる、わかってる」 最後にわかってるんだよ、と投げやりに言葉をつけたし、膝を抱える腕に力をこめる。 けれども、目は閉じなかった。 怖かったんだ。 目を閉じることが…自分の黒い部分と向き合うようで、 この目の内に溜まっている雫が零れてしまいそうで、 「…別にいいんじゃないか?」 「…っえ?」 「そういう感情をもってもさ、…そういうの嫉妬っていうんじゃないか?……俺はさ、そういった感情も恋愛には必要なものだと思うんだ……。まぁ俺が偉そうなこと言える立場じゃないけど…」 俺にその感情を教えてくれた風丸は空を仰ぎながらどこか遠くをみて寂しそうに笑った。 「…風丸」 「おっとそれじゃあ俺はそろそろ練習にいくかな」 声をかけようとした時にはもう遅く風丸はグラウンドへとかけていった。 「…緑川」 聞き慣れすぎた声に名前を呼ばれ僕は反射的に後を振り向く。 いつからそこにいたのか、いきなりのヒロトの登場にあたふたと動揺している自分。 ヒロトはそんな僕をみてクスクスを笑みを溢した。 「安心して緑川。俺はいつだって君一筋、だから。」 ヒロトの言葉に俺の顔は真っ赤に染まっていった。 でも、ヒロトの言葉で胸のうちに渦巻いていた黒く醜い感情は逆回りに渦を巻き、僕の心の内のどこかへと姿を消した。 「…ありがとう。僕もだよ。」 END (その一言) |