最近、神童が授業中にボーッとしている事が多い。何を考えているのか突然眉間に皺をよせ、難しい顔をする。

悩み事だろう。

長年の付き合いから神童が考えている事は大体予想がつく。新学期早々からフィフスセクターとか新入生の事とかで大変だったから…多分その事だ。


2年生ながら先輩達からキャプテンを任され、一人で何とかしようと気負い過ぎているのだろう。


こういう時こそ周りを頼れば良いのに神童はそれをしない。
長年の時を共にしている俺にでさえ頼って貰った記憶は全くといっていい程ないのだ。

俺がどんなに神童の力になりたいと思っても、結局神童の中での俺はその程度なんだと思うと、妙なイラつきを覚えた。




授業が終わり俺は神童の席へと向かった。

「神童、」

「………霧野か、どうした?」


少し遅れて反応する神童の顔は誰が見てもわかるくらい疲れた顔をしていた。
上手く寝付けていないのか、目の下には隈ができていて正直あまり見れたものじゃない。


「……………?」

「………悩んでるんだろ?」

「え?」「一人で抱え込むなよ…、もっと頼れよ。…俺たち友達だろ!」


そう言った時、神童が傷つき悲しそうな顔をしたように見えたが、すぐに顔を隠すように背けはっきりと確認することは叶わなかった。


「……っ…別に俺は、…俺は…お前に相談するようなことは、……ない!」

「っな!」

俺は神童のその言葉を引き金に溜まっていた気持ちが爆発し、思わず神童の机に強く手のひらを叩きつける。

この音を切っ掛けにクラス中の視線が一斉に俺に向けられるのを俺は肌で感じた。
だが、今の俺はそんなものに構っている余裕はなかった。


「そうかよ………、だったら勝手にしろ!」


俺はそれだけを言うと、走ってその教室から姿を消した。


教室からでてきた俺は行く当てもなく誰もいない屋上へと脚を運んだ。
着いてすぐに授業開始のチャイムがなったが、勿論教室に戻れる気持ちでもない俺は次の時間をサボることにした。


少しの冷たさ残した生暖かい春風が俺の頬を撫でる。春風のお陰で頭が冷えたのか、先ほどより大分落ち着いてきた。

だが冷静さを取り戻すとともに、怒りに代わって後悔の波がが押し寄せてきた。


「あぁなんで俺あんなこと…言ったんだろ」


自分の馬鹿さ加減にため息しか出ないかった。
次あった時、神童になんて言おう。そんな事を考えていると、日の暖かみのせいか妙に眠くなってきた。大人しく目をつぶってみるととても心地良かった。


ここにきてどれくらいの時間がたったんだろうか。そんな事を考えてふと目を開けた。

「……霧野」

「…!、し神童!」


そこにはいるはずのない神童の姿があった寝ぼけているのかと目を擦るが、どうなるわけでもなくどうやら本物らしい。


「神童なんで、…お前!…授業は?」

「霧野に謝りたくてな…それに今は昼休みだ。まさか立ち入り禁止の屋上にいるとは思わなかった。」

きゅっと俺の制服の裾を掴む神童。
そんな神童の言葉を聞いて、もしかしたら探してくれたんじゃないかと、不謹慎ながら少し嬉しかった。


「さっきは悪かった。心配してくれたのに……だが、勘違いしないで欲しい。……俺は!俺は別にお前が頼りないから相談しないとかじゃなくて…っ心配をかけたくなくて…、そ、そ、れで…」

少し涙目になっている神童をみて相変わらず泣き虫だと小さくため息をつく。


「…もういいよ」

「!っ頼む待ってくれ!」


話を途中で止めることで神童はまだ俺が怒っているのではないかと思ったのか必死で言葉を続ける。
そんな神童を包み込むように抱き締める。


「…もういい、」

「…っ…………」

「もういいんだ…、わかったから」

「………………あぁ。」


そう言うと神童は俺の制服を掴んだ手を離すことなく、静かに俺の腕で涙を流した。


「でも、よかった。…嫌われてるのかと思った。」

「……それは、な、い。」

「そうか……」


未だに嗚咽が止まらず上手く言葉がでない神童は俺の言葉に返すようにコクコクと小さく二回頷いた。

「……なぁ、神童。これからはちゃんと頼ってくれよ。…神童の力になりたいんだ……。」

「っ!」

「好きだ、神童。」


前髪をかき分け優しく額に唇を落とす。

神童はというと口を金魚みたくパクパクさせ、顔を真っ赤に染めている。


それから数秒たってから、俺も好きだと小さな声で呟いた。


END

(君の中の俺)




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