「おーい!三之助!」 当たり前に返事が帰ってくることはなく、自分の声だけが閑散とした空気に響き渡った。 「たくっあいつはまた迷子かよ」 いつも、いつも、と嫌味の隠った言葉を溢しながら大きくため息をついた。ここで文句を言ってても仕方がないと再び迷子探しに入ろうとすると後ろから人の気配を感じ、進めようとした足を踏みとどまらせる。 「…………ねぇ君君」 声がした方へと振り返るとそこには見知らぬ男が佇んでいた。帽子を深く被り、口元には妖しい笑みを浮かべている。声をかけられたからには、無視していくわけにもいかない。 「?なんですか」 「君、可愛い顔してるね。ヒヒッ」 「はぁ?」 俺は男の理解不能の言葉に眉をひそめる。男はゆっくりと一歩また一歩と俺の方へと歩みよる。この時、俺はは直感的にこれはヤバいと感じ取った。何か根拠があるわけではない。ただ直感的に、だ。だが、そう考えると足がくすんで思うように動かない。 「おじさんと良いことして遊ばない?」 ガシッと男の腕でによって身体を固定され、後ろにはコンクリート特有の冷たさが肌を通してつたわってくる。 「や、やめろ!はなせぇぇ!」 逃げ場を失ってしまい、ダメ元でもがいてみるが、上手く力が入らずなかなか抜けられない。ゆっくりスローモーションで近づいてくる男の顔。もう駄目かと思い目をぐっと瞑る。 「っ…………?」 いつまでたっても予想していたようなことは起こらず、代わりにぐわぁと謎の呻き声が聞こえた。それと同時に解放されたかと思えばまたもや腕を思いっきりひっぱらり知られた胸板へと押し付けられる。恐る恐る目を開けると襲ってきた男は足元で尻餅をつき、何かに怯えている顔をしていた。俺は男の目線の先へと顔をむけた。怒っているのか、普段ではあり得ないような怖い顔をした三之助がいた。 「三之助…」 俺の呼び掛けに応えるように俺を抱き寄せている腕に力を込める。 「おじさんさ、作に気安く手をださないでくれる?わかったらこの場から…消え失せろ」 「ひいぃ」 怒りを露にした三之助にびびり男は慌ててその場から走りさっていった。男が消えると安心したのか、膝がカクカクと笑いだし上手く立っていられなくなった。それをみた三之助はゆっくりと俺を地面へと座らせた。 「…作、大丈夫?」 「あぁ、なんとか……、」 雫が目のうちに貯まってたきていく。俺はそれをながさまいと必死に頑張ったが、何滴か頬を伝っておちていった。 「…………怖い思いをさせて、ごめん。」 親指で優しく雫を拭ってくれた。 「……本当だよ。でもよくたどり着けたな。」 「作の声聞こえてきたから、一心不乱に走ってたらなんかついた。愛の力ってやつ?」 愛の力って、なんだよそれ。っと心の中で突っ込む。直球過ぎる三之助の言葉に恥ずかしさを覚え、恥ずかしさを隠すため少しいじけたように敢えて憎まれ口をたたく。 「…なんだよ、元はと言えばお前が迷子なんかになるからだろう。……、ちゃんと責任とれよ!」 そんな俺の言葉に三之助は笑って答えた。 「ははっ、そうだな。んじゃあこれからは俺が作兵衛を命に代えてでも守るからさ」 「しょーがねぇ守られてやるか!」 「なんだよ、それ」 END (ハートのナイト) |