「月が綺麗だ。」 昼間は暖かくポカポカしていた日当たりの良い縁側も夜になればその暖かさは感じられなくなる。登っていた太陽も今となっては完全に沈みきってしまってたが、代わりに今の空には月が登っている。まるで暗い闇に包まれてしまったこの空間を照らすかのように、淡く光を放っている。 月とは本当にもどかしい物だ。手を伸ばせば届きそうなのに決して届かない存在。私が思うに月はまるであの方をそのままに映したかの様だった。 「…鯉伴様…、」 無意識のうち、その名を口にしていた自分がいて、酷く驚いた。私はハッとし周りを見渡した。今の発言が誰かに聞かれていないかと、恐る恐るフワフワと浮かんでいる頭を動かす。 「何を言っているんだ、私は」 こんなことで心を乱すなんて、自分はどれだけ引きずっているのだろうか。大きく息を吸って、同じ分だけゆっくりと吐き出した。頭を冷やせ、もうこの世に鯉伴様はいらっしゃらないのだ。 込み上げてくる物を抑えようと、精一杯の強がりで月を見上げる。だが、そんな悪あがきは何の意味も持たず、溜まっていた物はポロリポロリと頬を伝って流れ落ちていく。 「…鯉伴様…私は………私は…今、、貴方に触れたくてしかたがない。」 END (月には届かない) |